Research Abstract |
土壌食性の無脊椎生物が,土壌を食べることによって土壌構造を改変することがどのように物質循環,特に炭素循環に影響を及ぼすかを明らかにするために,まず今年度は室内実験により,物質環境の変化を測定した.調査地とした八ヶ岳山麓のカラマツ林には炭素含有率が20%を越す黒色土が分布しており,土壌食のキシャヤスデが高密度に分布している.採取したヤスデ7齢幼虫を用いて,土壌を与え,実験室で4週間飼育した.ヤスデを入れなかった土壌をコントロールとして,同様に4週間飼育した.土壌微生物バイオマス(燻蒸抽出法),窒素無機化量,および一酸化二窒素の生成量(ガスクロマトグラフィー)を測定したところ,それぞれコントロールに比べて,2.3,4,33%増加していた.また,土壌酵素であるプロテアーゼ,および微生物群集構造の指標であるPLFA(リン脂質脂肪酸)量も有意にコントロールに比べて増加していた.従って,ヤスデの糞団粒は微生物活性が一時的に高まっていた.一方,糞団粒の炭素含有率,およびCN比は餌とした土壌よりも高まっており,ヤスデは有機物の多い土壌の一部分を選択して摂食し,糞の炭素含有率を高めていた.一酸化二窒素の生成は,団粒の内部が嫌気的になり,微生物による脱窒が生じていることを示唆している.これらのことから,ヤスデ糞団粒では微生物活性が一時的に高まるものの,団粒内部が嫌気的になるため,その後の有機物の分解は進行せず,炭素が糞のなかに保持されると考えた.
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