Research Abstract |
急速活性型遅延整流性K^+チャネル(I_<kr>)の発現をコードするKCNH2遺伝子の機能喪失型(loss of function)変異に起因する2型QT延長症候群(LQT2)において,目覚まし時計や電話のベルなどの突然の音刺激が心電図QT時間(心室筋細胞の活動電位持続時間に相当)の延長と心室性不整脈発生のトリガーとなることが報告されているが,そのメカニズムは十分には解明されていない. 本研究課題では,音刺激に伴う交感神経緊張が心筋細胞のα_1-アドレナリン受容体(α_1-受容体)刺激を介してI_<kr>を減少させ,LQT2の発作誘発のトリガーとなりうるという仮説を,電気生理学的に検討した.具体的には,内因性にI_<kr>を発現しているHL-1細胞にパッチクランプ法を適用してI_<kr>電流を計測し以下の結果を得た. 1.α_1-アゴニストであるフェニレフリン(Phe,2.30μmol/L)はI_<kr>を31%減少させた. 3.PheはI_<kr>活性化の膜電位依存性を脱分極側への偏位させ,4.また脱活性化のキネテックスを促進させた(これらの効果はいずれもチャネル機能を抑制するはたらきをもつ,5.loss of function). 6.PheのI_<kr>抑制作用はプロテインキナーゼC(PKC)阻害薬では影響を受けなかったが,7.電極内にホスファチジルイノシトール(4,5)-2リン酸(PI(4,5)P_2)を投与すると有意に減弱した. このように,本実験結果によりα_1-受容体刺激は細胞膜PI(4,5)P_2の減少を介してI_<kr>を大きく抑制することが明らかとなり,LQT2にみられる突然の音刺激による心室性不整脈誘発に,α_1-受容体刺激によるI_<kr>電流の減少が奇与している可能性が強く示唆された.
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