2007 Fiscal Year Annual Research Report
17世紀後半のイタリアにおける協和音とその受容の理論の研究
Project/Area Number |
07J00172
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
大愛 崇晴 Seijo University, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 音楽理論 / 協和音 / 音楽美学 / 美学 / 科学革命 / 西洋音楽史 / メンゴリ / 17世紀 |
Research Abstract |
西洋音楽理論の歴史において常に中心的な主題であった協和音の問題について、17世紀後半のイタリアに焦点を絞って検討する本研究課題の1年目にあたる今年度は、ボローニャの数学者P.メンゴリの『音楽についての考察』(1670年)の分析を中心に研究を遂行した。この著作で展開される音程知覚論は従来の音楽理論書には認められない極めて独自なものであり、これまでに以下の点を明らかにできた。1、メンゴリは当時普及していた粒子論に従って空気を原子同様の粒子と見なし、その鼓膜への打撃の頻度によって音高が決定されるという機械論的な聴取のメカニズムを構想している。空気粒子の運動はアウラと呼ばれる微細な媒体を通じて魂に伝達され、音程の大きさが知覚される。2、魂は空気粒子の鼓膜への打撃数を数えることによって音程を把握するが、それは理性に依らず、もっぱら感覚のみによる認識作用とされる。感覚に認められる計算能力は理性のそれに比べると限定的であるが、この主張は従来のピュタゴラス主義的音楽理論が音程の数学的把握をもっぱら理性の対象としてきた経緯に照らすと革新的であるとともに、後のバウムガルテンによる感覚独自の認識理論としての美学の構想にも通じるものであり、音楽理論史のみならず美学史的にも注目される。3、魂は音程を知覚する際に感覚の計算能力に応じた数学的明証性を求めるため、感覚が把握できない微小な音程の誤差は魂が能動的に鼓膜を調節することにより感覚に理解可能な音程比に補正される。この議論は機械論に還元されない魂の自律性を認めるメンゴリの護教的立場を示している。 この他の研究活動として、ケプラーの宇宙論的音楽観に関する論文発表と講演、およびフィレンツェ国立中央図書館、ボローニャ大学図書館等における17世紀イタリアの音楽理論・音響学に関する資料の調査・収集が挙げられる。
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Research Products
(1 results)