2007 Fiscal Year Annual Research Report
先住民族の土地の権利と国家主権の相克-国際人権法における多文化主義の可能性と限界
Project/Area Number |
07J00545
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小坂田 裕子 Kobe University, 法学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 国際人権法 / 先住民族 / 国際連合 / 米州 |
Research Abstract |
本年度は、2001年8月米州人権裁判所によるアワス・ティグニ事件判決を中心とレて、先住民族の土地に対する権利に関する米州人権裁判所および委員会の実行を検討した。当該研究の意義は、米州人権制度の実行が他の国際及び地域的人権制度の実行に先んじており、前者の実行の分析を通じて後者の発展の方向性を考える一助となりうることがある。アワス・ティグニ事件判決は、法的拘束力をもつ判決を下す国際裁判所が初めて、個人の人権を規定する米州人権条約の財産権条項に基づき、先住民族の土地に対する集団的財産権の保障を承認するという発展的解釈をおこなったものとして注目されている。本件以前の国際及び地域的人権条約の個人通報制度における実行でも、個人の人権に基づく先住民族集団の保護か認められるようになっていたが、同時に主権国家の自国領域の排他的管轄権にも最大限の考慮が払われていた。その結果、先住民族に与えられる保護の具体的内容は、彼(女)遠の伝統的土地に対する所有権の承認までは至らず、土地に影響を与える決定への効果的参加の確保にとどめられてきた。アワス・ティグニ事件判決では、協議を行わずコンセッションを付与した事実も違反認定の対象となっているものの、それ以前の問題として、そもそも先住民族の土地に対する権利を登記や権利付与という形で公的に承認してこなかったこと、またその前提として共同体の土地の境界画定を怠ってきたこと自体を条約違反として認定した点で、新たな一歩を踏み出したと評価できる。また判決を受けて2003年にニカラグア議会は大西洋岸の先住民族の土地の境界画定と法的権利付与のための規則及び手続きを定めた新法を制定するなど、判決の履行に向けた動きが現実に存在しており、現実に与えたインパクトを今後も研究する予定である。 本年度の研究成果の公表は、「米州における先住民族の土地に対する権利」を神戸法学年報24号に投稿予定、また「『先住民族の権利に関する国運宣言』の意義と課題」を信山社発刊予定の講座国際人権法第4巻に掲載される予定である。
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