Research Abstract |
将来の南海地震に関して,発生しうる(1)アスペリティ分布,(2)断層破壊の動的特性,(3)地震の規模を想定し津波数値シミュヒーションを実施することで,沿岸の津波特性がどれだけ変化するのかを市町村レベルの解像度で整理した.その結果,沿岸の想定津波情報の不確実性を,震源断層情報を総合的に考慮して評価できるようになった.また,地震の規模による津波増幅率の局所性の観点からすると,地震時に想定以上に大きな断層すべり量になることよりも,想定以上に震源域(波源域)が拡大することの方が,津波増幅率の地域間差異が大きくなり,被害の大きさに関しても地域間で大きな違いを生じる可能性があることが分かった. 従来の津波想定は,津波数値シミュレーションにおける初期波源の精度の低さに課題があった.しかし,本研究で,震源断層の不確実性によって,従来の津波想定の信頼性がどの程度低下しているのか,また,最大どの程度まで津波が大きくなり得るのかを明らかにすることができた.とりわけ,こういった情報の地域間の違いが明らかになったことで,現在進行中,計画中の津波避難対策や津波制御対策が発災時にどの程度機能しうるのかを検討できるようになり,期待されている機能を高い確率で果たせる対策を優先的に実施するなど,戦略的な対策の実施が可能になった点が重要であると考えられる.なお,地域の特色を示す統計データとの重ね合わせや実務者への成果の発信を視野にいれた場合,これらの情報をGIS(地理情報システム)を用いてデータベース化できた点も重要であると考えられる.最後に,本研究の意義として,政府の中央防災会議が推奨する「選択と集中」による戦略的な津波防災対策の実現に向け,本研究が極めて大きな役割を果たせることを確信している点を挙げて締めくくりたい.
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