2007 Fiscal Year Annual Research Report
超越論哲学から超越論的文献学への転回:カントに挑むベンヤミンの歴史的認識の理論
Project/Area Number |
07J00832
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 一浩 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ベンヤミン / カント / ハーマッハー / ヘーゲル / アドルノ |
Research Abstract |
本研究は、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンの思想におけるカント哲学の意義を明らかにしようとするものである。本年度は、三年間の採択期間の初年度にあたる。本年度の研究は、上記の課題を直接的に論考に定着させるよりも、むしろその準備作業に集中した。その作業の内実は、(一)ベンヤミンの著作の研究はもちろんのこと、(二)ベンヤミン研究に関わる論考の収集・読解、(三)カントの著作の立ち入った読解の開始・継続として要約される。そのうち(二)および(三)からのひとまずの成果として、以下に掲げる翻訳および口頭発表を行なった。 拙訳になるヴェルナー・ハーマッハー「(仮面をつけた芸術の終わり)」(『現代思想』二〇〇七年七月臨時増刊号、青土社、二〇〇七年、所収)は、ヘーゲル『精神現象学』における「喜劇」の働きを論じたものである。これは直接ベンヤミン研究に関わるものではないが、ヘーゲル論の枠を超えてテクスト読解一般についても示唆するところ大である。これの翻訳によって、ベンヤミン研究に取り組む際の指針を再確認することができた。 表象文化論学会・第二回研究発表大会でのパネルディスカッション(二〇〇七年十一月十七日)では、議題となった竹峰義和『アドルノ、複製技術へのまなざし』(青弓社、二〇〇七年)の中心的論点とその意義とを要約・敷衍して呈示した。その際、本研究の主要論点のひとつである「ベンヤミンにおける認識可能性の時間性」を暗黙の背景として、竹峰の著作で展開されずにとどまっていた芸術作品および芸術批評の時間性を問い、ディスカッションの土台とした。結果、本研究を進めるにあたっての補助線が得られた。 研究会(哲学/倫理学セミナー)での口頭発表「カント『判断力批判』第五八節について」では、本研究の課題のひとつとなるカント読解の端緒を呈示した。ベンヤミンの認識論で繰り返し強調される「認識可能性の今」の萌芽となる時間性は、カントその人の意識的主題ではなかったかもしれないが、カントのテクストには確かに書き込まれている。テクストに書かれた具体的な叙述が組織する時間性が問題である。この口頭発表では、第三批判の第五八節に例外的に書き込まれた「飛躍」にこの点を読み取るプログラムを立ててみた。これは次年度にさらに展開し、まとまった論考に定着させる予定である。
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