Research Abstract |
本種の個体群動態研究の基礎を築くため,成体の住み場の環境条件や住み場内の季節分布パターンを明らかにすることを目的に研究をおこなった。標識放流個体の追跡調査による夏眠場の特定を試みたほか,室内実験による行動的特性の理解による間接的な夏眠場の推定を試みた。標識個体の追跡では,砂泥上に放流された個体が,直ちに岸壁の構造物上に移動し,何らかの基物の隙間もしくは下面に付着し,潜り込むように身を寄せていた。この観察から重要と考えられた3つの要素,付着角度の選択性,走触性,背光性について,夏眠場の選択に与える影響を明らかにするために実験をおこなった。その結果,これら全てが満たされて初めて夏眠場が成立する可能性が示唆された。さらに,季節分布パターンを明らかにする目的で,山口県西部の波止場において個体群の追跡調査をおこなった。その結果,冬季には海底にも広く分布する一方,夏季には構造物上に限って分布する季節性が認められ,それは個体の局所移動によるものと考えられた。これによって,季節分布パターンの形成要因について仮説が提示され,特に大きな要因と考えられたことから,基質選択性の季節性の存在を検証する目的で実験をおこなった。その結果,本種の付着基質選択の季節性が明らかになった。 初期生態の最大の不明点であった成長バラツキ(成長差)の成因を解明するため。飼育方法が種苗の成長に与える影響について検討した。その結果,摂餌機会の不均等が原因となって成長差が生じると考えられた。さらに,自然の個体群では摂餌機会は均等と予想され,コホート解析の手法により2つの野外調査を実施した結果は,予想通りに成長差の小さいものであり,それぞれ成長式の算出により成長速度の推定がが可能であった。
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