Research Abstract |
人類進化上大部分を占める前期・後期旧石器時代の石器資料は,人類初源の実相を明らかにする上で欠くことのできない分析対象である。中でも石器に用いられてきた岩石材料は初期人類の対象物に対する認知構造,知識獲得,知識表現,概念形成の発達過程等,心的様態に関する数多くの情報を内包している可能性が高いことから,近年特に認知科学の分野からも注目され議論され始めている.しかし現在までのところ,これら石器石材に関する研究は,材料表面の肉眼観察に基づく岩石学的分類もしくは主観的な記述に基づく論考が主流を占めており,材料の客観的かつ定量的評価方法の必要性が国内外で叫ばれているにもかかわらず,その評価方法はほとんど確立されていないのが現状である. 当研究では後期更新世人類が石材を選択する際,対象をどのように認識し,またどのような基準で選択・利用していたのかを解明することを目的とし,後期更新世期に用いられた各種の岩石サンプルを対象としてその物理的・機械的特性を定量的に評価することを目的としている.本年度においては,[1]北米Northwest Coastにおけるtrachydaciteの理化学的分析とその材料利用に関する考古学的解釈,[2]石器使用痕形成における石材特性の影響,[3]石材の熱変化を利用した材料改質技術の可能性について分析を継続して行った.これらの研究は特に算術平均表面粗さ測定(Ra値),3点曲げ強度試験,マイクロビッカース硬度試験,靱性値測定(IF法),磨耗試験機,X線回折分析,エネルギー分散型X線分光分析,走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡,偏光顕微鏡を用いた詳細かつ多角的な材料分析を通して行っており,材料分析における先端的手法を考古資料解釈に導入した点で世界的にも例を見ない研究である. 現在までのところ,[1]]に関しては平成20年度にSimon Fraser UniversityのBrian Hayden博士と共同で行ってきた研究がほぼ終了し,その成果をまとめる段階に来ている.また[2]に関しては現在,その成果を査読付国際誌へ投稿中である.また[3]に関しては,査読付国際誌Asian Perspectivesへの投稿原稿を準備中である.その他,[2]については平成21年4月にAtlantaで開催されるSociety for American Archaeology 74th Annual Meeting(SAA)で発表予定であり,さらに[3]については平成20年8月にCancunで行われる国際会議において発表が予定されている.
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