2008 Fiscal Year Annual Research Report
J.ロックの経済思想におけるコンテクスト研究:植民地問題を中心に
Project/Area Number |
07J01764
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
門 亜樹子 Kwansei Gakuin University, 経済学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 自然法 / 道徳学 / 奴隷 / ロック / プーフェンドルフ / バルベイラック |
Research Abstract |
第二年度は、ロックの『統治二論』に見られる奴隷観に大陸自然法思想が与えた影響について研究するために、プーフェンドルフの『自然法による人間と市民の義務』(1673年)と『自然法と万民法』(1672年)の奴隷に関する議論を中心として、ロックとの比較検討を行った。ロックは『統治二論』において、奴隷(slave)は戦争捕虜であり、従僕(servant)と異なり主人と契約を結ぶことができず、所有(property)を喪失しているために、所有の保護を目的とする政治社会の成員ではないと述べた。一方、プーフェンドルフは『人間と市民の義務』第二篇第四章で主人と奴隷の義務について論じる。彼が奴隷(servus)の対象として挙げているのは、家事労働に従事する従僕と戦争捕虜である。『自然法と万民法』第六篇第三章では、奴隷制(slavery)は神の命令や自然によって設けられた制度ではなく、自発的な同意に起因すると主張する。さらに、契約に基づき主人と結合した奴隷と監獄に拘束された奴隷を区別し、主人が両者に対して同様の権力を持つというホッブズの議論を退ける。このようにロックとプーフェンドルフの従僕と奴隷の区分には共通点が見られる。次に、両者の議論の思想的背景を探求するために、バルベイラックによる仏語訳『自然法と万民法』(1706年)の序文「道徳科学の歴史的・批評的解説」の精読に取り組んだ。バルベイラックによれば、道徳は政治や自然法と同じものを意味し、学者や聖職者だけでなく、一般の人々も道徳学(Science des Mouers)を理解する能力を有する。ロックは『教育に関する諸考察』のなかで、プーフェンドルフの『自然法と万民法』を、人間の自然権と社会の起源・基礎、そこから発生する義務を教える著作として推奨する。道徳学に関する共通の認識の下で、ロックが自らの思想を形成した可能性を追究した。
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