Research Abstract |
プレスチンは内耳蝸牛内の外有毛細胞の細胞膜に存在する膜タンパク質である.これまで,電子顕微鏡や原子間力顕微鏡を用いてプレスチンの構造解明が試みられてきた.しかし,プレスチンの構造は未だ不明である.そこで本研究では,プレスチンを精製し,人工脂質膜に埋め込み,そして原子間力顕微鏡で観察することで,プレスチンの詳細な構造を明らかにすることを試みた.まず,FLAGタグ融合プレスチン発現細胞から,プレスチンを含む膜タンパク質を細胞から界面活性剤を用い可溶化した.そして,膜タンパク質溶液からFLAGタグアフィニティカラムを利用してプレスチンを精製した.並行して,人工脂質膜を雲母基板上に自己組織化能を利用し作製した.さらに,界面活性剤を利用し,脂質膜を弱らせた.続いて,界面活性剤に覆われた精製プレスチンを脂質膜に加え,界面活性剤を希釈法により除去し,プレスチンを脂質膜に再構成した.その後,再構成したプレスチンを原子間力顕微鏡で観察した. 原子間力顕微鏡で脂質膜を観察した結果,高密度に存在するリング形状の構造物が確認された.それらの構造物の直径を計測すると,11.0±1.3nm(n=42)であった.この値は,過去に報告されているプレスチンの直径と良く一致する.本研究では,プレスチンを精製しているため,脂質膜に存在する構造物は全てプレスチンであると考えられる.以上のことから,本研究で観察された構造物はプレスチンであるとみなせる.すなわち本研究の結果は,プレスチンが脂質膜中で直径約11nmのリング形状を形成することを示唆する.本研究は世界に先駆けてプレスチンを高分解能で可視化したものであり,聴覚の研究領域に留まらず,膜タンパク質の研究領域においても重要な成果である.
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