Research Abstract |
本年度は,真空紫外円二色性(VUVCD)分散計を,単糖類や多糖類の構造解析そして生体膜と相互作用したタンパク質の二次構造解析に応用した。 (1)D-glucoseのC-1位のOH基をメチル化したmethyl α-D-glucopyranoside (α-D-Glc)のVUVCDスペクトルを,密度汎関数法(DFT)と時間依存密度汎関数法(TDDFT)で求めた理論スペクトルと比較することで,α-D-Glcの水和を含めた構造や水溶液中でのα-anomerの二つのconformer(α-GGとα-GT)のCDへの寄与を調べた。その結果,水分子はOH基と水素結合することで水分子ネットワークを形成し,α-D-Glcの構造を制御していることが分かった。また,これらの計算スペクトルは,水分子の位置や数によって大きく影響を受けることが分かった。(2)Glycosaminoglycans(GAGs)は,様々な生物学的機能を有する重要な多糖類であるが,水溶液中での構造は,構成する糖の種類により複雑に影響を受ける。そのため,VUVCD分散計を用い,6種のGAG(chondroitin,chondroitin sulfates,hyaluronic acid,heparin)とそれらの構成糖(N-acetylaminosugars,uronic acid)のVUVCDスペクトルを,水中で240から160nmの波長範囲で測定し,GAGの環内酸素孤立電子対の高エネルギー遷移に及ぼす官能基(sulfate,carboxyl,hydroxyl,hydroxymethyl,acetamido等)やグリコシド結合の寄与を明確にした。これらの結果は,GAGの水中での詳細な構造解析やCDの理論解析に対して重要な情報を与える。(3)VUVCD分光法は,タンパク質の二次構造(α-helix,β-strand,turn,random構造)の含有率とその本数を決定するだけでなく,アミノ酸配列情報を用いたNeural Network(NN)法と組み合わせることで,アミノ酸配列上での二次構造の位置を高精度で予測することができる。我々は,α_1-酸性糖タンパク質(AGP)の生体膜(リポソーム)との相互作用による二次構造の変化をVUVCD分光法で解析することで,その相互作用のメカニズムや構造-機能相関について新たな知見を得ることに成功した。
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