2008 Fiscal Year Annual Research Report
「越境」の社会学-トランスナショナルな社会空間における「政治」の一考察-
Project/Area Number |
07J02010
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
大井 由紀 Hitotsubashi University, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 国家主権 / セキュリティ / グローバリゼーション / 中国系移民 / トランスナショナリズム / 対抗的公共圏 / 生得の市民権 / 州の主権 |
Research Abstract |
今年度は、19世紀末の在米中国系移民を事例に、蒸気船の発達により世界の諸地域がグローバルに結ばれていく、つまり時間と空間の圧縮を背景とするアメリカと中国の国民国家形成と近代化を、人の越境移動という視点から考察した。前年度までの研究を踏まえ、今年度着目したのは次の点である。第一に、アメリカにおける蒸気船発達の歴史とその意義である。東・西海岸が蒸気船の発達によって結ばれた過程と、それが対内的主権形成において有した意味、そして国内だけでなく、世界中の様々な地域が蒸気船によって接続された過程を明らかにした。第二に、中国系移民が起こした差別的な法律への反対運動の展開と挫折の原因を考察し、「国家主権」と「セキュリティ」という概念によって、差別法が正当化されたことを明らかにした。これにより、批判的な言論空間である対抗的公共圈が有効であるためには、「主権」と「セキュリティ」という論理を克服することが重要であることがわかった。これは19世紀末だけでなく、現代社会における社会運動への示唆でもある。第三に、アメリカ生まれの中国人、つまり第2世代への生得の市民権付与をめぐる論争を考察した。これを通して、「誰がアメリカ人になりうるのか」というネーションの境界線と、国家主権と州の主権の拮抗を明らかにした。 国境を超える移民は国民国家の「他者」として考えられてきたために、移民や外国人は国民に対置される。しかし本研究では、人の越境移動と国民国家形成や国の近代化の関係を再考することによって、移民・外国人は「他者」として構築されはするが、本来的な「他者」ではないことを指摘した。この認識は、ますますグローバル化か進み、様々な形で人びとが国境を超える中で、自分や自分が住む社会がどのように変わったらいいのか、また、政策を考える上でも、重要である。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article]2009
Author(s)
大井由紀
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Journal Title
佐藤成基(編者)『ナショナリズムとトランスナショナリズム-変容する公共圏』(法政大学出版会)
Pages: 203-222
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