Research Abstract |
岩盤河川における遷急区間の侵食(後退)速度について,河川侵食力と岩盤強度との両要素のパラメータからなるHayakawa and Matsukura(2003)による予察式をもとに,その式の適用可能性と,侵食速度に対する環境要素(地形・地質・気候・水文等)の検討・評価を進めた。これまで,房総半島の滝を対象とした当初のデータを含め,阿蘇外輪山,日光華厳滝,コロラドフロントレンジやナイアガラフォールズ(北米)などにおいては,Hayakawa&Matsukura(2003)の式は遷急区間の侵食速度の相違は,流量,滝の規模および岩盤強度の組み合わせによって説明され得ることが示されてきた(たとえばHayakawa and Matsukura,2009)。しかしながら,立山称名滝,および台湾中西部の河川群から得られたデータの解析によると,これらの河川における遷急区間侵食は上記の予察式により予測される侵食速度よりもはるかに大きい速度で実際に侵食されていることが明らかとなった。これらは,現地観察やGISを用いたDEM解析に基づいた解釈として,河川を流下する礫などの運搬物質が河床の侵食を促進している可能性があると議論されている(Hayakawa et al.,2008,2009)。今後さらに詳細な解析を行うために,より多くの分析事例を収集することが肝要である。 また,こうした遷急区間の各大陸の山地地域における分布を調査するために,地形情報(DEM)の収集・整理を行った。たとえば,地形情報として全世界をカバーするSRTM(解像度90m)を,ワークステーションにおけるGISによって統合管理し,河川の縦断面形を取得・解析しつつある。また,新たな高解像度グローバルDEMであるASTER G-DEM(解像度30m)の利用可能性について予備的検討を行い(Hayakawa et al.,2008),データの正式リリース(2009年6月予定)後にSRTMと同様に解析を行う計画を立てた。こうして得られる縦断面形のデータセットからは,河床勾配の数値解析を行うことにより,遷急区間の位置を自動抽出することが可能であり,地球上の広域的な遷急区間の分布を把握できる。さらに,その中から現地調査を行う遷急区間を選択し,岩盤強度や河川侵食力のデータ収集が進行中である。 一方,遷急区間などの現地調査において地形の3次元データを迅速かつ正確に取得するための方法として,ディファレンシャルGPSとレーザ距離計を組み合わせた測量システムの開発を行い,各所における適用や精度検証等を行った(Hayakawa and Tsumura,2008;Hayakawa and Ikeda,2009)。この手法は,地形が未知の場所においても,数時間から数日間で高解像度の3次元地形データを低コストで取得可能とするものであり,遷急区間地形の現地調査においても活用している。
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