2008 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア正教をめぐる記憶から見る、ポスト・ソヴィエト社会の国民統合問題
Project/Area Number |
07J02518
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 沙奈美 Hokkaido University, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ロシア現代史 / ロシア正教会 / 記憶 / 聖地 / ツーリズム / 文化財 / ナショナリズム |
Research Abstract |
1.モスクワおよび北ロシアにて、資料収集および聞き取り調査をおこなった。(1)国立ロシア連邦アーカイブ、ロシア国立現代史アーカイブおよびレーニン名称図書館などを中心に、60-80年代の宗教政策に関する研究、史跡・文化財保護活動に関する資料を収集した。(2)カレリア共和国キジー島、およびアルハンゲリスク州にて、博物館の展示状況と年次報告書、来館者の感想について資料を収集し、学芸員に聞き取り調査を行った。(3)A.タルコフスキー監督作品『アンドレイ・ルブリョフ』について、党・政府上層部の上映反対派の意見、同時代の新聞・雑誌の作品批評に関する資料収集をおこなった。 2.入手した資料をもとに、宗教的文化財に対する60-80年代の公的記憶の形成について、以下の点を明らかにした。(1)宗教的史跡・文化財の「伝統」、「祖先の遺業」といった性質が戦後特に注目され、党・政府の中央部はこれを強調することで、宗教性を無視した宗教文化財の保護と利用を積極的に行った。(2)そのような保護や利用は、60年代に博物館が組織されるまでの保護の期間が長いほど有効に機能した。逆に、20-30年代の無神論政策で破壊された宗教文化財においては、過去の栄華と現在の窮状が暗黙裡に対比されることとなり、学芸員や来館者から宗教性の喪失に対する疑義が呈される可能性を常により多くはらんだ。(3)「伝統」や「祖先の遺業」などのナショナリスティックな感情と結び付けられた過去は、常に「輝かしい」ものとして表象されることが求められた。『アンドレイ・ルブリョフ』はタタールのくびきからの開放の時代を暗いものとして描いたことを主な理由に、上映許可が長らく下りなかった。
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Research Products
(9 results)