Research Abstract |
1.新規Fe(II)スピンクロスオーバー錯体,FeII2[MoIV(CN)8](3-pyridylmethanol)8・3H2Oを合成した.本錯体は立方晶系の高い対称性を持ち,FeとMoがシアノ基で架橋された三次元の結晶構造を持つ.本錯体は広い温度範囲に渡るながらかなFe(II)スピンクロスオーバーを示し,その温度変化はボルツマン分布に従う場合と比較してもなおなだらかであった.平均場近似による解析の結果,観測されたなだらかな転移は,ハイスピン(hs)Feサイトと,ロースピン(ls)鉄サイトが三次元に交互に配列(-hs-ls-hs-ls-)していることからの帰結であることが示唆された.このような交互配列を誘起する相互作用が本系で支配的だったのは,FeIIサイトが立方晶という高い対称性のもとで,シアノ錯体を介し共有結合で直接結びつけられており,転移サイト間に大きな相互作用が働くため,転移に伴う体積変化が誘起する弾性的相互作用が三次元方向に等方的に伝播するためだからだと考えられる.このような交互配列は本系において初めて示唆された現象であり,新しい形の転移現象として重要な知見を与えるものと考えられる.また本研究からの展開として,反磁性の[MoIV(CN)8]4-を常磁性構築素子である[NbIV(CN)8]4-に置換した系の合成にも成功しており,その結果,これまでに1例しか報告されていない,強磁性とFe(II)スピンクロスオーバーを共存させることにも成功している. 2.焦電性フェリ磁性体,[{MnII(pyrazine)(H2O)2}{MnII(H2O)2}{NbIV(CN)8}]・4H2Oを合成することに成功した.本錯体は48Kにおいてフェリ磁性相へと転移し,またa軸方向に磁化容易軸を持つ.また,結晶構造はb軸方向に自発電気分極(P)を持つ三次元構造を有しており,第二高調波(SHG)活性な化合物である.SHGの温度依存性について検討を行ったところ,90K以下の温度領域において,趙常磁性に起因するなだらかなSH強度の増加がみられ,磁気相転移温度(48K)付近からは自発磁化の発現に伴うSH強度の急激な増加が観測された.本系は大きな非線形磁気光学効果を示す材料であり,その他にも,磁気物性と誘電物性の交差相関を検討する上で,重要な化合物であると期待される. 3.我々はこれまでに,陽イオン交換膜Nafion中にシアノ架橋型金属錯体微粒子が分散した透明複合膜を報告しているが(W.Kosaka et al.Inorg.Chem.Commun.9,920(2006).),その高い透明性が各種分光測定,特に時間分解分光測定に有利である.シアノ架橋型金属錯体の中には,興味深い光誘起電荷移動現象などを示すものがいくつか知られているが,本研究で得られたナノ微粒子薄膜を利用した分光測定によって,その電荷移動プロセスについて,多くの有用な知見が得られている.
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