2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07J02626
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 哲哉 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | サスペンス / リュミエール兄弟 / トム・ガニング / 初期映画 / モンタージュ / 神経 / グリフィス / ノエル・バーチ |
Research Abstract |
課題である「サスペンス映画の歴史」の基礎となる感情移入(envolvement)の問題についての理論的考察を、論文「基底的サスペンスとシジフォスの憐れみ」としてまとめ、『映像学』に発表した。その意義は、精神分析学が提示する「見る主体」の図式、あるいは説話論的な情報提示の技法にもっぱら依拠してきたサスペンス)「感情移入」を、生態心理学的見地から再定位した点にある。生態心理学の観点を援用することにより、運動するイメージを受容する局面におけるダイミナミックなプロセスがそれとして焦点化されることになった。その結果、グリフィスからヒッチコックへ至る構成としてのサスペンスが、視聴覚的認知におけるある一定の、断絶のパターンを反復していることが明らかになった。 さらに、上述した、観客の空間把握のプロセスにおいて身体的に経験される断絶が、初期映画における一連の列車のスペクタクルにおいて先駆的に見出されることを示し、ノエル・バーチらの先行研究を援用しながら、歴史実証的的な文脈に位置づけることに成功した。結果、サスペンス形式の発生的過程を、映画のメディア・スペシフィシティーに特化し、初期映画からグリフィス以後に至る連続性のもとで捉えることが可能になった。 グリフィスに関しても、2007年12月のニューヨークMOMAにおける現地調査を通して、撮影監督ビリー・ビッツァーが達成した空間造形の特徴に着目しながら、サスペンス作家としての読み直しを進めることができた。具体的にはフィルモグラフィーにおける「別離」と「望郷」の主題の重要性を示し、空間造形の水準においていかに周到な断絶の契機と、それにともなうサスペンスの持続が重視されていたかが明らかにされた。以上の研究によって、表象体系としての映画の発展史におけるサスペンス構成の重要性があきらかにされた。
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Research Products
(2 results)