Research Abstract |
インドにおける大乗仏説論の解明を目的とする本研究において,その基礎となる関連文献のテキスト校訂・訳注作成の作業は,年次計画にほぼ沿う形で,以下のとおり行った. 1.『思択炎論』第四章の校訂本の作成:チベット語訳テキストについて,五つの版本を対照をし,綿密なテキスト校訂を行った.また,他の章の記述や関連文献を比較参照しつつ,訳注を継続中である. 2.『大乗荘厳経論』第一章の無性釈・安慧釈の和訳:前年度に行った蔵訳テキストの翻訳作業にもとづき,無性・安慧のほかの注釈の読解もすすめつつ,注釈を施す作業を継続した. 3.『入大乗論』の和訳・解読:漢訳文献である本文献については,大正蔵をもとにしながらも,そこに引用されているチベット語,サンスクリット語の文献を参照しつつ,テキスト確定,訳注作業を継続中である. それらの研究成果の一端を,以下のように発表した.国際仏教学会(於アトランタ)では,アーナンダ(阿難)批判が大乗仏説論において占める重要性を論じた.すなわち,『思択炎論』の『シンシャパー経』引用の意義を考察し,同論が,声聞乗の阿含である同経の記述に基づいて,アーナンダによって受持されていない仏陀の教説として大乗を位置づける議論を行っていたことを指摘した.また,東方学会にて,明治期から現代にいたるまでの大乗仏説論研究の成果を概観し,特に「隠没」経の理論について論ずる発表を行った.さらに,『哲学・思想論集』掲載の論文では,同じく大乗仏説論を扱った文献である『釈軌論』と『大乗荘厳経論釈』の著者問題や『楞加経』との前後関係についても,考察を加えた.
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