Research Abstract |
近年,液体ヘリウムフリーの超電導マグネットの開発により,強磁場作用を利用した材料の微細組織制御が精力的に行われている.材料の微細組織形成は,「拡散」および「核生成-成長」に密接に関連しており,これらを制御することで精密な組織制御が可能になる.本研究では,現代社会の基盤材料である鉄系材料を用いて,拡散および核生成-成長過程に及ぼす強磁場の影響を明らかにすることを目的として実験を行った.まず,爆発圧着法により作製した純鉄(純度99.99%)および共析鋼(Fe-0.87mass%C)の拡散対を用いて,磁場作用下におけるα鉄中の炭素の拡散および固溶限を調査した.その結果,6Tの外部磁場により炭素の拡散は70%程度抑制され,温度950-1000Kにおいて鉄中の炭素の固溶限が2倍程度増加することが明らかになった.これまで,磁場作用下におけるα鉄中の炭素の拡散および固溶限を実験的に調査した報告はほとんどないため,電磁場材料プロセシングの分野において非常に貴重なデータであると思われる.続いて,Fe_<73.5>Si_<l3.5>B_9Nb_3Cu_1アモルファス合金の結晶化過程に及ぼす磁場の影響を調査し,アモルファス相中に形成するα鉄結晶粒の核生成および粒成長を透過電子顕微鏡観察により定量的に評価した.その結果,6Tの磁場の印加によって,核生成頻度が2倍程度に増加することが明らかになった.これは,古典的核生成理論における結晶核の体積エネルギーに磁場効果が顕著に現れ,結晶核の臨界核半径が小さくなることに起因する可能性があることが見出された.また,結晶粒成長に関しては磁場の影響は確認されなかった.最後に,結晶核の結晶方位をX線回折法により調査すると,表面方位が{110}に集合する傾向にあることがわかった.これは,磁気異方性の小さいα鉄においても,磁場の印加により結晶方位を制御可能であることを示唆する結果である.
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