2007 Fiscal Year Annual Research Report
ジュゼッペ・ボッタイの芸術戦略-イタリア・ファシズム下の芸術活動と批評の関係性-
Project/Area Number |
07J03297
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鯖江 秀樹 Kyoto University, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ファシズム文化 / 芸術と修辞 / 芸術社会学 / 観念論美学 / 複数の近代 / 作品の循環性 / 文化政策 / 政治と美学 |
Research Abstract |
本研究は、ドイツやソヴィエトとは性質を異にする、イタリア・ファシズム文化の諸相を、美術や建築、さらにそれに関連する批評言説を手がかりに明らかにするものである。特に絵画・建築と政治の複雑な結びつきを、当時の批評言説にそって分析することで、次の二点を明らかにした。第一に、この時代の芸術表現が、「精神」そのものであると考えられるかぎりにおいて、二つの独特な捉え方が支配的であった、ということである。ひとつは芸術=精神を、官僚的・経済的制度によって、いわば「外側」から管理しようという立場であり、もうひとつは、純粋な精神こそが、自律的で純粋な芸術を生み出すという考えである。しかも、こうしたふたつの考え方は、芸術家の政治的立場や政治家の芸術に対する姿勢と交錯しているがゆえに、イタリア・ファシズムは多様性をはらんだ文化を形成することになったのである。第二の点は、当時書かれた芸術批評において、修辞が果たしていた重要な役割である。つまりドイツやフランスから移入された「非イタリア的な」近代芸術に、イタリア固有の性格を付与するためには、それを説得する術のほうが不可欠だったのである。言い換えれば、レトリックはこの時代、作品制作を左右するひとつの条件として成立していたことになる。この逆説は、前述した「芸術精神説」と一見対立しているようにみえながら、実は表裏一体のものなのではないだろうかと、私は考えている。イタリア・ファシズム文化のもつ矛盾したこれら性格を、さらに深く探求することは、近年問い直されている「近代」の評価や、その歴史記述にも密接に関連しているのである。
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Research Products
(3 results)