2008 Fiscal Year Annual Research Report
シナプスにおけるNMDA受容体の動的機構の解明:1分子観察法による研究
Project/Area Number |
07J03337
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 賢治 Kyoto University, 物質-細胞統合システム拠点, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ラフト / アクチン膜骨格 / GPIアンカー型タンパク質 / シナプス / NMDA受容体 / ホップ拡散 / 高速1粒子追跡 / 蛍光1分子追跡 |
Research Abstract |
本研究の基盤的知見を得るため、細胞膜上でのリン脂質分子DOPE、DMPE、DPPEの熱拡散運動を、1分子追跡法を用い、さらに2つの時間分解能33ミリ秒と、20マイクロ秒(世界最速)で検討した。文献では、飽和脂肪酸鎖を持つリン脂質は、常に直径数100ナノメートルの領域に閉じこめられているという報告があり、分野の専門家でも、これを信じている研究者は多い。しかし、私の結果は、これらは、特定のリン脂質を閉じこめるような領域ではないことを示している。細胞膜がアクチン線維依存的に仕切られていて、リン脂質分子は、仕切られた領域の間をホップしながら、大きな範囲を拡散していくという、ホップ拡散運動していることを明確に示している。また、化学固定法によって、膜に存在するタンパク質、膜上の細胞外基質、膜骨格を固定したとき、シナプスに存在するラフト関連分子の多くは、拡散運動がわずかしか遅延しないことも明らかになった。すなわち、細胞膜の細胞質側にあるLyn、Rasなどのタンパク質は、典型的な固定条件である『4%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液で30分』では熱拡散運動は95%以上止まるが、ラフトやシグナル伝達に関わるGPIアンカー型タンパク質は40%以上がまだ熱拡散運動していた。さらに3.6%PFA+グルタールアルデヒド(GA)0.1%溶液で30分処理しても、約30%の分子がまだ拡散運動していた。そして、これらのラフト分子を90%以上固定するには、3.6%PFA+GA0.2%溶液で90分処理しなければならないことを世界で初めて示すことができた。これらの結果はラフト研究のみならず、化学固定を用いるすべての研究者にとっても有用な情報であり、化学固定の効果(主にシナプスに存在するラフト分子についてであるが)を世界で初めて定量でできたことになる。さらに、シナプス形成に重要な役割を果たしているN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体の運動・局在を調べるために、NMDA受容体のサブユニットであるNR2AドメインにYFPタグをつけたYFP-NR2Aを発現させ、スパイン上のYFP-NR2Aを1分子追跡することに成功した。また、YFP-NR2Aの挙動と比較するために、細胞膜にのみに存在するとされているGPIアンカー型受容体mGFP-Thy1も発現させ、1分子追跡することに成功した。これらの1分子追跡の結果を現在比較・検討しているところである。
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