Research Abstract |
本研究は,保護区域に隣接する人為的景観とそこでの人間活動,特に伝統的農業が果たす生態学的な機能を明らかにすることを目的としている.調査は,インドネシア西ジャワ州,グヌン・ハリムン-サラック国立公園の森林に隣接する,伝統的農業(CP村)と他の農業(PA村)を営む集落で行った.CP村の住民は,イネの一期作と焼畑耕作を行い,PA村の住民は,イネの二期作と野菜栽培を行っている.CP村の住民は,大半が土地を所有しておらず,混栽樹園地に植栽した樹木作物と,家畜から主な農業収入を得ている.PA村の住民は,所有地を水田として,非所有地を畑地として積極的に開墾している.けじめに,村の景観構造と各土地利用での資源管理が周囲の森林に与える影響を,鳥類を指標にして明らかにした.村の景観構造の中では樹木環境の割合が,資源管理では樹林での下層植生の存在が,森林性・林縁性鳥類の分布に影響していた.CP村の混栽樹園地では,多様な樹種と発達した植生構造が,森林性・林縁性の鳥類に利用されていた.さらに人為的景観の季節的変化,特にイネの作付けをけじめとする農事の季節性が周囲の森林とどのように関わっているかを,鳥類を指標にした通年の調査から明らかにした.一期作によって水田の季節性が顕著なCP村の水田は,水田周囲に植栽された樹木作物と共に,林縁性の鳥類に利用されていた.またCP村の住民によって維持管理されている樹木作物や下層植生は,留鳥や渡り鳥の季節的な利用に大きく貢献していた.結果から,住民の生業活動や経済状況が村落景観の生態学的機能を変化させる仕組みが明らかになった.特に,伝統的農業が生物多様性を維持する鍵は,空間的・季節的に一様でない,村落景観の構造であることを示した点に意義かおる.また,単に伝統的農業を奨励するのではなく,人為的景観を含めた包括的な森林管理に向けた提案を行った点に,本研究の重要性かおる.
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