2007 Fiscal Year Annual Research Report
ヒンドゥー教における現世放棄者サードゥーの苦行実践と近現代インドの社会変容
Project/Area Number |
07J03660
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 裕士 Kyoto University, 大学院・アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 現世放棄 / 苦行実践 / 聖典 / 学習 / 共同体 |
Research Abstract |
現世放棄者のもつ独自の共同性のあり方、および家住信奉者との関係性の現代的様態を把握することが本研究の目的である。その上で本年度は、あらゆる苦行実践の思想的根幹にある聖典の学習過程に着目して研究を進めた。聖典の正確な学習と伝承を大本として、そこから派生する形で様々な共同性が生まれていると考えたからである。現時点までの研究で明らかになりつつあることは、聖典でありかつ宗教詩篇であるがゆえに、一読して意味が理解出来るようなものではなく(安易な誤読は罪となる)、聖典への習熟を根幹においた苦行実践全体の過程として、初めてその真の意味が体得されるということである。すなわち、学習は、逐語的に意味を同定していくことではなく、師に従った詠唱を徹底して反復することで、当該テクストのもたらすbhava(情調)を体得してゆくことによってなされる。そのため、まずテクスト全体に対して精神的に開かれてあることが何よりの前提となる。つまり、同一性の原理に従ってなされる近代的なテクスト読解の習慣をいったん脱することが求められるということである。これは実際には極めて困難な思考様式の転換を要するが、反復して詠唱する実践のなかで過程として、聖典の内に込められた世界の全体が徐々に内面化されてゆき、テクストの全体が生きられたものとして迫ってくるようになるのは事実である。今回の限られた渡航期間で全てを把握することはもとより不可能であるが、苦行実践の全体として真のbhakti(信愛)に到達することこそが究極の目的であるということを垣間見るに至った。なお、研究実施計画では、英国での短期文献調査も計画していたが、諸般の事情により今回は断念した。
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