2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07J03678
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 貴文 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 消息 / 阿仏尼 / 十六夜日記 / 兼好 / 徒然草 / 紫式部日記 / 大槐秘抄 |
Research Abstract |
消息的テキストの性格をさらに追究すべく、阿仏尼の予になる『十六夜日記』に注目し、その文学的性格を検討した。同テキスト、中でも「鎌倉滞在記」は、訴訟のために鎌倉に下向した間仏尼と京都との家族、友人との間で進り取りされた往復之間の再構成から成り立っており、研究者にとって見過ごせない問題をはらんでいると思われた。検付の結果、同テキストからは、書き記された消息、すなわち「文」によって京都とつながり続けたいと願う、書き手阿仏尼の想いが色濃く読み取れた。従来、内省性、自照性の弱さを文学的な欠点として批判されてきた同テキストは、むしろ他者とつながることを目指したテキストであったと指摘し、かかる成果を発点した中世文学会においても高い評価を得た(成果をまとめた論文が、2008年6月刊行予定)。また『徒然草』に関しても、『紫式部日記』「消息文」との比較から両テキストの類似性に言及し、東京大学中世文学研究会第308回例会において発表した。消息的性格による両テキストの類似性に言及した先行研究はほとんど皆無といってよく、斯界に一石を投じるとともに、改めて中世文学史における消息の重要性を再確認することができた。さらに、中世文学史に多大な影響を与えたと看られる院政期における消息的テキストの濫触、展開を確認するべく、藤原伊通の手になる『大槐秘抄』を取り上げ、翻刻、語釈等の基礎作業を行った。『大槐秘抄』は、伊通が二条天皇に献上した政治の理想を説いたテキストであるが、全文消息体で記されており、消息的テキストとしての性格が認められた。これまで、文学研究の側からはほとんど関心を寄せられておらず、研究者による基礎研究は、斯界に資するところが大きいと信じるものである。(724字)
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