2007 Fiscal Year Annual Research Report
現代諸方言に見る推量形式の用法変化-〈認識〉から〈伝達〉へ-
Project/Area Number |
07J03699
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
白岩 広行 Osaka University, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 推量 / 確認要求 / 東京方言 / 京阪方言 / 推量形式 / 通時変化 / 談話的機能 |
Research Abstract |
現代日本語の推量形式(標準語ではタロウ)には、「明日はたぶん雨だろう」のように単に話し手の見込みを示す用法と、「ほら、あそこに松の木があるだろ」のように聞き手に確認を求める用法がある。前者は話し手自身の認識に関わる〈推量〉の用法、後者は聞き手へのはたらきかけに関わる〈確認要求〉の用法として位置づけられている。 本研究は、日本語諸方言の推量形式を取り上げて、より基本的と考えられる〈推量〉の用法がら〈確認要求〉の用法が拡張してゆく過程を通時的に(時代を追って)記述するもので、本年度は文献資料の多い東京(江戸)方言(ダロウ)および京阪方言(ジャロウ・ヤロウ)を対象に調査をおこなった。 調査の結果、両方言ともに、近世(江戸時代)には、話し手にとってすでに明らかなことを聞き手に確認する用例がほとんど見られないことが明らかになった。つまり、推量形式の基本的意味は〈推量〉であり、〈確認要求〉の用法はまだ確立されていなかったものと考えられる(聞き手に何らかの確認を求める例は見られるものの、そのほとんどは話し手にとって未知のことであり、〈推量〉という用法の枠内で解釈できる)。 〈推量〉という枠では解釈できず、〈確認要求〉としか言いようのない例、つまり、話し手にとって既知の事実を確認するもの(例:あそこに松の木があるだろ)は、両方言とも明治期から頻繁に見られるようになる。現在では、逆に、〈確認要求〉の用例が多数を占め、純粋に〈推量〉といえる推量形式の用例は、(話しことばでは)非常に少なくなっている。〈従来の研究では共時的な(現代語のみを扱った)議論が主で、これに対し、通時的に(時代を追う形で)考察をおこなうことができたのは意義深かったと考える。確認要求〉という談話的機能への意味の移行は、言語変化の一般的な傾向と比較しても興味深い。この成果は来年度論文化の予定。
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