Research Abstract |
鉄はほぼすべての生物の生長に必要不可欠な微量栄養素である。鉄の化学種は,多様な水環境中で特に河口・沿岸域においてダイナミックに変化し,一次生産を支配する因子となっている。本研究課題では,藍藻類に着目しその摂取機構を解明すること,そして流域レベルで鉄が藻類に及ぼす影響を評価することを目的としている。本年度の研究では,まず,様々な培養条件下で放射性同位体Feの取り込み試験を実施し,反応速度論モデル結果と照合することで,藍藻類は水中で一時的に生成される還元態鉄の第一鉄Fe(II)を摂取することを明らかにした。Fe(II)の生成には,暗条件では活性酸素種の一種であるスーパーオキシドの還元反応が寄与し,明条件では光エネルギーによる有機リガンドの励起を介した反応が優位であることが分かった。もう一つの成果としては,数値シミュレーションにより河口・沿岸域における鉄の移流・拡散を再現できたことが挙げられる。連続の式やナビエストークスの式に,鉄とフミン物質の錯形成反応モデルを組み込むことで,宮城県松島湾流域における有機鉄の動態をシミュレートした。その結果,調査で得られた溶存態鉄濃度と時空間的に適合した。また,数値計算および実測の結果から,松島湾では藻類の成長に十分な鉄濃度が存在することが明らかとなった。今後は,鉄の酸化還元反応を組み込むことで,藻類に利用可能な鉄形態であるFe(II)が時空間的にどう変化するのかを予測評価していく必要があると考えるが,そのために必要な反応速度論モデルや,移流・拡散モデル,Fe(II)の定量手法等の要素技術は,本研究期間の3年間において開発することができたと評価する。
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