2007 Fiscal Year Annual Research Report
光及び中性子散乱法を用いた高分子水溶液高圧物性の時空間解析
Project/Area Number |
07J04468
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大坂 昇 The University of Tokyo, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 中性子小角散乱 / 高分子 / 高圧 / 水素結合 / 動的光散乱 / タンパク質 / 相分離 / ゲル化 |
Research Abstract |
今年度に行った課題研究には以下に述べる2つの方向性があった。1つ目は、高分子構造に対する圧力効果の定量的な評価。2つ目はこれまでに得られた圧力効果の知見を、高分子よりも複雑な構造を持つタンパク質に対しても適用することである。それぞれに対する結果を以下に述べる。 1、希薄系ブロックコポリマー水溶液を用いて実験を行った。希薄系を用いることでミセル間に働く相互作用を無視する状況を作り出すことができる。そのため、単一ミセルの構造変化のみを抽出できる。まず動的光散乱装置を用いてブロックコポリマーが形成するミセル領域の相図を作成する。温度を上げるとミセル形成が始まり時間相関関数の緩和時間が増大する。この点をミセル化点と決定した。この相図に基づき、ミセル化点より上の温度で小角中性子散乱測定を行いミセル構造の変化を観察した。得られた散乱データはPedersenにより提案された球状ミセルモデルを用いて解析を行った。その結果、低圧下においてミセル形成は温度、圧力に対して非常にシャープな変化をした。一方、高圧下においてミセル形成は非常に連続的な変化を示した。ブロックコポリマーミセルは高分子間の疎水性相互作用により形成されると考えられている。そのため、ミセル形成の変化を考慮すると高圧下での疎水性相互作用は低圧下に比べ減少していると考えられる。さらに、ミセルの構造内部に注目すると高圧下で形成されるミセルは内部の水含有率が高い(右図)。これは、疎水性相互作用が高圧下で弱まることに加え、高圧下で水の密度が大きくなることに起因する。 2、β-ラクトグロブリン(β-lg)タンパク質を用いた、圧力誘起ゲルと温度誘起ゲルの比較。β-lgは牛乳タンパク質の主要成分であり、生命科学の分野で最も多く研究対象となるタンパク質の一つである。β-lgはある濃度以上で変性するとゲル化することが知られている。従来の我々の研究から物質問の凝集に本質的な役割を果たす疎水性相互作用は加圧により減少することが分かってきた。本研究ではこの知見がタンパク質等の高分子よりも複雑な構造を持つタンパク質に対しても適用可能かどうかを調べることである。ゲル化点の決定は動的光散乱を用いて行った。ゲル化過程を動的光散乱で追跡すると圧力誘起のゲルは温度誘起のゲルと比べてゲル化過程が非常に連続的である。この結果は高圧下で疎水性相互作用が減少したと考えられ、我々の従来の知見と非常に良く一致する。また、ゲル化過程と同一の条件で小角中性子散乱を行うと温度誘起と圧力誘起のゲルで右図に示す違いが見られた。温度誘起のゲルは疎水性相互作用により強く凝集するために、ゲルのユニットが複数のβ-lgから成る。一方、圧力誘起ゲルは疎水性相互作用の凝集力が弱いためにそのような大きなユニットは得られなかった。以上から、疎水性相互作用の圧力依存性の普遍性が理解された。
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