2008 Fiscal Year Annual Research Report
光及び中性子散乱法を用いた高分子水溶液高圧物性の時空間解析
Project/Area Number |
07J04468
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大坂 昇 The University of Tokyo, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 中性子小角散乱 / 高分子 / 圧力 / 水素結合 / タンパク質 / 準弾性散乱 / 相分離 / 水 |
Research Abstract |
本申請者は昨年度において小角中性子散乱法を用いて高分子の高次構造へ与える圧力効果を研究し、相分離に重要な働きをする疎水性相互作用が高圧下で低下することを明らかにした。また、タンパク質であるβ-ラクトグロブリンへの圧力効果を調べることで、疎水性相互作用が低下する変化が高圧下で普遍性に見られる現象である可能性を示した。本年度は、高分子水溶液への圧力効果をミクロな観点から理解するために、中性子準弾性散乱法を用いて水和水のダイナミクスの測定を行った。用いた高分子は温度、圧力誘起相分離を示すpoly(N-isopropylacrylamide)(PNIPA)である。 まず、大気圧下において昇温による水和水のダイナミクスの変化を調べた。低温、相溶状態においては水分子は高分子と水素結合を形成しており、バルク水と比べて小さい拡散係数の値を示す。また、相分離温度においては水和水は脱離するため、水和水の拡散係数は急激に上昇する。一方、高圧下においては低圧下と同様に相分離温度に応答した拡散係数の上昇を示す。しかし、この拡散係数の温度変化は大気圧下の変化と比べて連続的になっており、この傾向は高圧下になるほど顕著である。中性子準弾性散乱法においては、溶媒中の重水素分率を調整することで高分子の振動モードを検出することが可能である。それによると、高分子の振動モードも水和水の変化に対応して、高圧下においては転移が連続的になることが明らかにされた。また、高圧下における水和水の緩慢な変化は水素結合の低下を意味しており、この変化が高圧下において疎水性相互作用が低下することの起源であることが実験的に示された。
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