2007 Fiscal Year Annual Research Report
ソ連における歴史学と政治-スターリン時代を中心として
Project/Area Number |
07J04669
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
立石 洋子 The University of Tokyo, 大学院・法学政治学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ロシア連邦 / 旧ソ連 / 歴史学 / 歴史教育 / 歴史学と政治 |
Research Abstract |
スターリン時代の自国史叙述の変遷を明らかにすることを目的として、1930年代の歴史教育改革を、1937年に刊行された初等教育用ソ連邦史教科書の作成過程とそこにおける全連邦共産党とロシア共和国教育人民委員部及び歴史家の議論を中心に検討した。この際に、「帝国主義批判」を理念とする多民族国家であり、また連邦諸民族の一部はロシアによる植民地支配によって軍事的に併合されたというソ連の特徴に特に着目した。具体的な検討材料は、当時出版されたソ連史教科書及び教育新聞・雑誌、学術雑誌、またロシア国立文書館、ロシア社会政治史文書館等の資料である。 研究の成果としては、以下の点を明らかにした。1930年代のソ連の歴史教育改革の目的の一つは、経済史や革命運動史に偏った革命初期の歴史敦育を改め、体系的史実を生徒に習得させることであった。しかし、その後ナチスによる歴史学・歴史教育の全面的改革が始まると、そのソ連に対する敵対的内容がソ連の歴史家の注目を集め、ソ連の歴史教育改革においても愛国主義教育の側面がより強調されるようになった。またドイツ歴史学は、ソ連を含む東方地域に、古代にドイツ人が文明を広めたことを、東方地域侵略の正当化の根拠として主張したために、ソ連歴史学はこれに対抗して、ソ連内の諸民族が古代から独自の歴史を持つことを示そうとした。その結果、ロシアを中心とする連邦諸民族の統合の肯定的描写と、連邦諸民族の歴史研究の活発化という二つの相反する特徴が1930年代後半のソ連歴史学・歴史教育に現れた。このなかで、ロシアによる連邦諸民族の植民地支配をいかに評価するか、つまり国家統合と、連邦諸民族の民族解放闘争のどちらを優先して肯定的に描くのかという問題が、1930年代のソ連の自国史叙述をめぐる論争の中心的論点となったのである。
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Research Products
(1 results)