2007 Fiscal Year Annual Research Report
幸田露伴における近代性確立以前の「知」の総合的研究
Project/Area Number |
07J04712
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
出口 智之 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 明治前の美術概念 / 近代化する社会と人間との軋轢 / 薩摩焼 / 遊び / 笑い / 明治中期の作家たちの交流 |
Research Abstract |
まず「樋口一葉「うもれ木」論」(『国語と国文学』平成十九年七月)において、樋口一葉の「うもれ木」(明治二十五年)を取上げ、これまで薩摩焼の絵つけ師である主人公入江籟三と、その妹お蝶が、詐欺師の篠原辰雄にだまされる話とされてきたこの作品の読みかえをはかった。すなわち「うもれ木」を、美や名誉の追求によりアイデンティティを形成してきた籟三が、経済システムと名望とが結びっいた時代を反映した辰雄の援助を受けることで、経済のなかに取込まれ、自己の存在価値の崩壊に直面した悲劇と捉えなおした。これより、一葉が早くから、近代化する社会と人間との軋礫を見据えていたことが確認できた。またこれは、出発期の一葉が、幸田露伴の「風流仏」(明治二十二年)などの影響を受けることで成しえたものと考えられ、露伴文学の同時代への影響を考察できた。次に、「幸田露伴の遊びと笑い-根岸党を基点として-」(『笑いと創造』、勉誠出版、平成二十年三月)では、露伴の作品に見られる遊びや笑いの要素を、彼が明治二十年代、根岸党の作家たちと交遊するなかで培われてきたことを明らかにした。露伴は後年になっても根岸党の作品を高く評価しているほか、その方法を継承した作品も執筆しており、根岸党からの影響が確認できる。露伴の文学に見られるこのような遊びや笑いの精神は、その後の文学の主流からは失われてしまったものであるという視点から、露伴文学が持つ近代文学への批評性を考察した。
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