2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07J04812
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤井 光 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 現代アメリカ文学 / 分身 / クリシェ / 時間性 / William T.Vollmann / Don DeLillo |
Research Abstract |
当該年度の研究は、現代アメリカ小説において、自己のアイデンティティを問い、また変容に導こうとする動きが、「分身」という主題と結びついていることを中心として行われた。それによって、William T.Vollmann、Richard Powers、Steve Ericksonら、現代作家において頻出する「分身」という主題を、包括的に研究する作業を行うことが可能になったと言える。 「クリシェ」を主題とした、Steven Millhauser、Jeffrey Eugenides、Stephen Wright、Richard Powersらの小説では、既存のアイデンティティとは紋切り型の自己であり、クリシェの「分身」に過ぎないという洞察が共有されているとともに、そこからの出口、あるいは「外部」はどこにあるのか、という問いが発せられている。 また、William T.Vollmannのテクストにおいて、分身は「アメリカ的自己」への批判を含み、明確にポリティカルな問題意識を伴っている。ここでの自己どはアメリカ合衆国が現代世界で作り出す権力関係を反復する、「アメリカの分身」として姿を現し、その自己への嫌悪感が表明されている。 一方で、分身の出現が、むしろアイデンティティの変容につながるものとして、肯定的に描かれるテクストも存在し、なかでもDon DeLilloのThe Body Artistは、身体と時間という主題を絡めながら、自己の変容を実現するものとしての分身を語っている点で際立っている。 以上のテクストを検討し、今後は、分身という主題が反復という物語行為と結びついていること、そしてその中で時間が問題化されるという点を研究することが可能になったと言える。
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Research Products
(3 results)