Research Abstract |
1.泥炭地湖沼の水文化学環境の解明 釧路湿原の赤沼を対象として,湖沼の流入出水量および水質の観測を行い,水・物質収支の把握を試みた.その結果,泥炭地湖沼の水収支は,その大部分を降水と蒸発に依存していることが考えられた.特に降水量の多い赤沼の場合,他の地域の泥炭地湖沼に比べて,湖沼を出入りする水・物質量が多いことが分かった.以上の結果は,降水量の多い東アジア地域の泥炭地湖沼の水・物質収支に関して,世界で初めて整理したものといえる.泥炭地湖沼は貴重な生態系を有している一方で,湿原開発とともに人為的な攪乱を受けてきたため,世界的にもその保全が望まれている.今回得られた結果は,そのような泥炭地湖沼の保全・再生手法の検討に活かすことができる. 2.人為的攪乱が泥炭地湖沼の水文化学環境に及ぼす影響の把握 人為的攪乱を受けている泥炭地湖沼として,集水域のほとんどが農地利用されている,石狩泥炭地の宮島沼を対象に,赤沼と同様の方法で湖沼の水・物質収支を調査した.その結果,宮島沼は営農に伴う水門操作によって,非灌漑期に水位が大きく低下していた.また,灌漑期においては,灌漑用水の流入量増加によって,湖沼を出入りする水量が多く,水収支の大部分を水路流入水と水路流出水が占めていた.一方,宮島沼の全窒素,全リン濃度は,多くの期間で湖沼の環境基準値を上回っており,富栄養化状態にあることが分かった.以上の結果から,宮島沼の水文化学環境は,営農に伴う水管理の影響により,健全な泥炭地湖沼とは大きく異なっていることが示唆された.今後,水・物質収支を整理し,赤沼と比較することによって,宮島沼の水文化学環境の再生手法を検討する必要がある.
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