Research Abstract |
森林が持つ洪水や崩壊・侵食を緩和する機能の定量的評価が社会的に求められている。これらの機能は,土層内に浸透した雨水の挙動を特徴付ける土壌構造が,森林生態系の影響により構造発達することによって発揮される。森林の土壌構造は,粒径分布や母材によって特徴付けられる一次構造と,森林生態系の影響により発達する二次構造によって形成されるので,一次構造と二次構造を含む不撹乱土壌と,同じ土壌を締め固めて作った,一次構造のみで形成される撹乱土壌を比較し,構造発達の影響を抽出した。また,土壌構造は森林斜面において植生・風化・地形などの要因が作用して発達するため,土層の深さや斜面位置によって発達過程が異なっている。そこで構造発達の天然林斜面における空間分布を評価した。結果,構造発達によって,天然林斜面の土層内において,表層土壌ほど大孔隙が増加,中孔隙は減少し,飽和透水係数は増加することが分かった。さらに,撹乱土壌と不撹乱土壌の水分特性を用いて雨水の浸透・流出プロセスを数値シミュレーションで解析したしたところ,森林土壌は構造発達によって,降雨を一時的に土層に貯留して波形を緩やかに変換した上で,基岩に浸透させ深層地下水を涵養する能力が高まること,また,強い降雨のときには,河川への直接流出によって余剰な雨水を排出することで,土層と基岩内の正の水圧が高まることで発生する斜面崩壊や,飽和地表面流による表層崩壊の危険を軽減する効果を発揮することが示された。
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