Research Abstract |
本年度は,途上国において腸管系ウイルスを原因とする水系感染症のリスクを低減できる水利用システムを開発することを目的として,河口沿岸域における腸管系ウイルスの挙動解析を行った。まず,下水や河口沿岸域底泥から効率よくウイルスを回収し,定量的に検出するために,新規なウイルス回収手法を開発した。水試料中のウイルス濃縮手法の1つであるポリエチレングリコール(PEG)沈殿法に酵素処理を利用したウイルス誘出法(EVE法)を組み合わせることで(回収率16%),従来のPEG沈殿法(回収率2.5%)と比較して下水からのウイルス回収率が6.4倍向上した。また,底泥試料に含まれるウイルスのカプシドタンパク質を変性させ,抽出した核酸を磁気ビーズを使用して精製する新規なウイルス回収手法は(回収率11%),昨年度開発した底泥をグリシン緩衝液に懸濁させ,低速での遠心分離後に液層に含まれるウイルスを濃縮する手法(回収率3.3%)と比較して,回収率が3.3倍向上した。この手法により,高城川流域で採取した河口の底泥からエンテロウイルス遺伝子が湿潤重量1gあたり,240~860コピーの濃度で検出された。また,定量下限値以下ではあるが,これまでに底泥からの検出例がないノロウイルス遺伝子を湾の底泥から検出することに成功した。 ウイルスが水中では溶存態有機物質として均一に分散していると仮定し,河口沿岸域における水中のウイルス濃度を2次元潮流拡散モデルを用いてシミュレートしたところ,河川中では計算値と実測値がよく一致したが,河口では計算値の方が高く,湾では実測値の方が高くなった。このことより,河口沿岸域において腸管系ウイルスは,溶存態有機物質と同様に河川中を流下し,河口では荷電中和反応により凝集後,底泥へ沈降し,底泥の巻き上げによって水中に再浮遊することで湾に到達するという挙動をとることが明らかとなった。
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