2007 Fiscal Year Annual Research Report
特別な幾何学的構造を持った物質系のデコヒーレンス理論
Project/Area Number |
07J05485
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小杉 範仁 Hiroshima University, 大学院・総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 量子情報 / 曲率 / トポロジー / Berry位相 / 幾何学的位相 |
Research Abstract |
本研究の目的は,量子情報技術発展のため,物質の持つ幾何学的性質と量子干渉性との因果関係を明らかにすることと,そのデコヒーレンス過程を明らかにすることの2点にある.これらの目的を達成するために,物質の持つ幾何学的位相(Berry位相など)と曲率が量子干渉性に影響を与える現象に注目し,以下の2つの研究を行った. 第1の研究では,曲率を持ったリングに広がる電子を扱い,リングの内と外に対するトンネル確率を考察した.定性的には,電子の感じる遠心力ポテンシャルの存在により,リング半径が増加する方向へのトンネル確率の方が減少方向のそれよりも大きいと予想されている.先行研究では,半古典的な手法(WKB法)を用いたため,幾何学的性質としての曲率に対する取り扱いが十分でないことが分かった.今後,トンネル確率に対しWKB法を超えた取り扱いを行うことで(数値計算等),上記因果関係が理解できるとの見通しを得た. 第2の研究では,上記の目的を達するために,スピン空間の幾何学的性質を反映したBerry位相の量子干渉を考察した.単分子磁石の縮退したスピンの2状態間で量子コヒーレント振動が起こることが知られている.この振動数はBerry位相に依存すると予想されており,振動数の観測はBerry位相の量子干渉の証拠となる.今回,振動数の観測方法を考察した.これは,2準位系を囲んだリングを進む電子の量子干渉(Aharonov-Bohm効果)を用いる方法である.従来の観測方法では,振動数の大きさを正確に求められない.しかし,このモデルでは電子の存在確率の観測から,振動数の大きさを測定できる可能性があることが分かった.ただしこの系では,振動周期に比べて電子の通過時間が極めて短くなっている.したがって,振動数が電子の観測により得られるかについて,数値計算を用いた検証が必要である. 平成20年度では,上記2つの研究を継続して行うとともに,Aharonov-Anandan位相(一般の幾何学的位相)を用いた結合型の超伝導位相量子ビットを研究する.この系に注目した理由は,この系が上記2つの目的を達成するための研究が一貫して行える系であるためである.
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