2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07J05729
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣瀬 歩 (酒井 歩) Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 絵画的奥行き知覚 / テクスチャ勾配 / キャストシャドー / 霊長類 / 比較認知科学 / 地面優位性 / 生態 / 錯視 |
Research Abstract |
物理的には同じ3次元世界でも、その動物種の生態によって視覚環境は異なり、外界から取得する情報も異なる。このような観点から、本研究では、様々な霊長類間で3次元場面を知覚する際のテクスチャ勾配手がかりの処理にどのような差がみられるかを、大きさの恒常性による錯視を用いて検討した。その結果、ヒト視覚系はテクスチャ勾配によって形成される「面」に非常に強い感受性を示し、「地面」の文脈が「天井」よりも強力な錯視を知覚するという地面優位性を示した。また、ヒトと同様に地上性である旧世界ザルのギニアヒヒも同様の傾向を示したが、その程度はヒトに比べて弱かった。一方、新世界ザルのテクスチャ勾配に対する感受性は弱く、地面優位性もみられず、むしろ側壁の文脈において錯視量が増加する傾向がみられた。霊長類におけるこれらの結果の違いは、地上性や樹上性という生態と関連していると考えられ、霊長類はそれぞれの視覚環境において、最も豊富で利用価値の高い奥行き手がかりを用いて3次元場面を処理していることが示唆される。 さらに、動物の生態と3次元知覚能力との関係を詳細に検討するため、キャストシャドーの手がかりを用いて、新世界ザルの奥行き知覚を調べる実験を行なった。その結果、キャストシャドーがテクスチャ勾配による奥行き知覚を増強させる点はヒトと新世界ザルで共通しているが、影に関する処理の精度がヒトと新世界ザルでは異なることが示された。これらは、樹上生活を営む新世界ザルにとってキャストシャドーは有効な奥行き手がかりであるが、ヒトはその特殊な照明環境などによってより陰影に対する感受性を進化させた可能性を示唆する。 本研究は生態を軸とした種比較を行い、生態がわれわれの3次元視における重要な要因であるという知見を行動実験により提供した。これらの研究成果は、国内外の学会で発表され、国際誌への投稿をすすめている。
|
Research Products
(2 results)