2008 Fiscal Year Annual Research Report
温帯林の分子植物地理学的研究-第四紀の急激な分布の変遷に伴って起こった適応進化
Project/Area Number |
07J05749
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
岩崎 貴也 Tokyo Metropolitan University, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 植物地理学 / 遺伝構造 / 葉緑体DNA / 温帯林 / 日本海側気候 / 適応進化 / 生態的分化 |
Research Abstract |
本年度はまず、福島-新潟県境地域から群馬-新潟県境地域、そして中部山岳地域全体にまたがる広い地域で、合計26集団についてツリバナとウワミズザクラの詳細なサンプリングを行った。一年次に行ったサンプリングの結果と合わせると、調査対象の地域全体からバランスよく合計31集団について十分な数のサンプルを集めることができたことになる。さらに、ツリバナのサンプル合計722個体については葉緑体DNAのハプロタイプ解析も行った。その結果、日本全体レベルでみられていた日本海側地域-太平洋側地域の遺伝的分化は、これらの地域について詳細に遺伝構造を調べた場合でも全体に渡ってほぼ維持されていることが分かった。特に、この遺伝的分化の境界を挟む17ペアの集団の組み合わせのうちの9ペアでは、両集団間がわずか数十km程度しか地理的に離れていないにも関わらず、日本海側地域の集団は全てが日本海側に多いハプロタイプで、太平洋側地域の集団はほとんどが太平洋側にしかないハプロタイプで構成されており、非常に強い遺伝的分化があることが分かった。特に、長野県大町市集団と長野県豊科町集団の間には山脈などの地理的障壁がないにも関わらず、日本海側(大町)と太平洋側(豊科)の間でほぼ完全な遺伝的分化が維持されていた。この両集団の間では冬期の降水量や積雪量が非常に劇的に変化しており、こういった気候的な違いが遺伝構造の維持に関わっている可能性が考えられる。今までの結果から日本海側地域の集団と太平洋側地域の集団は最終氷期以降の歴史が異なると考えられ、この両集団はその過程で日本海側・太平洋側の異なる気候に合わせて適応進化し、さらにそれによる生態的分化によって現在も遺伝的分化が維持されている可能性がある。
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Research Products
(3 results)