2009 Fiscal Year Annual Research Report
温帯林の分子植物地理学的研究 -第四紀の急激な分布の変遷に伴って起こった適応進化
Project/Area Number |
07J05749
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
岩崎 貴也 Tokyo Metropolitan University, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 植物地理学 / 遺伝構造 / 葉緑体DNA / 温帯林 / 日本海側気候 / 生態的分化 / 最終氷期最盛期 |
Research Abstract |
本年度はまず、これまでに行っていた中部山岳地帯のサンプリングに加え、東北地方と北海道で合計11集団360個体のツリバナを採集した。また、葉緑体DNAの解析に加えて核DNAについても解析を行うため、ツリバナについて核SSRマーカーを7遺伝子座開発した。これらのサンプルや遺伝マーカーを用いて解析を行った結果、葉緑体DNAと核SSRマーカーの両方で、東日本の日本海側地域集団と太平洋側地域集団の間に強い遺伝的分化が存在することが分かった。また、葉緑体DNAにおける低頻度ハプロタイプと核SSRマーカーにおける1地点固有アリルの分布パターンから、北陸地方中央部と関東・中部地方南部に、最終氷期最盛期における主要なレフユジアが存在したことが示唆された。このうちの関東・中部地方南部では、集団内の遺伝的多様性はそこまで高くないものの、狭い範囲で強い集団間分化がみられた。これは、分断化された複数のレフユジアが狭い範囲に存在したとする「refugia within refugia」仮説を支持するものであると思われる。さらに、東北地方北部から北海道南部の地域でもレフユジアの存在も示唆された。この北方レフユジアは、これまで花粉化石による研究や他の植物についての分子植物地理学的研究において、ほとんど指摘されていなかったものである。また、日本海側集団と太平洋側集団を分ける境界線付近の地域に着目してみると、日本列島を縦に走る高い山脈を挟んだ地域だけでなく、冬期における積雪量といった気候要因が劇的に変化しているような地域でも、両地域集団間の遺伝子流動が強く制限されていることが分かった。この結果は、ツリバナの日本海側集団と太平洋側集団がそれぞれの気候に適応して生態的に分化しており、それによって最終氷期以降の分布変遷ルートが制限されている可能性を示唆していると思われる。
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Research Products
(4 results)