2009 Fiscal Year Annual Research Report
2次元三角格子Mott絶縁体の基底状態に関する熱的研究
Project/Area Number |
07J06416
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 智史 Osaka University, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強相関 / 有機導体 / スピン液体 / フラストレーション / 反強磁性 |
Research Abstract |
本研究では、スピン液体状態の実現を検証・詳細の解明を目的として種々の研究を行い、κ-(ET)_2Cu_2(CN)_3とEtMe_3Sb[Pd(dmit)_2]_2におけるギャップレスな励起を持つスピン液体が実現していることを示してきた。研究の最終年度にあたる本年度は、種々の測定を通してスピン液体の本質を議論した。EtMe_3Sb[Pd(dmit)_2]_2のスピン液体状態をさらに詳細に検証するため、カチオンの水素の一部を重水素に置換した試料の熱容量を測定した。この結果、重水素置換体・非置換体の双方においてギャップレスな励起をもつスピン液体が実現していることを明らかにした。また、重水素置換によりスピン液体の励起構造が変化する可能性を示した。前年度において、κ-(ET)_2Ch_2(CN)_3における重水素置換の効果を調べるため、分子中の水素を全て重水素に置換したκ-(d_8:ET)_2Cu_2(CN)_3を作成していた。本年度は、得られた試料の熱容量を測定し、同物質の励起構造が重水素置換によっても変化しないことを明らかにした。重水素置換効果にみられる両物質の違いは、主としてEtMe_3Sb[Pd(dmit)_2]_2が、他の相との量子臨界点付近に存在する物質であり、また、分子の積層構造を有するため圧力に敏感な特性を持つためであると考えられる。この事実は、スピン液体の形成には、物質の結晶構造が強く影響する可能性があることを示唆している。本研究で得られた種々の研究結果は、スピン液体の実験的な検証例および三角格子を有するダイマーMott絶縁体におけるスピン液体の共通点を示しただけではなく、これまで重視されてきた三角格子の異方性とは異なった新たな研究視点を与える重要な結果である。
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Research Products
(5 results)