2009 Fiscal Year Annual Research Report
中世アイスランド社会と王権―ノルウェー王との関係を軸として―
Project/Area Number |
07J06447
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 涼 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 中世 / 北欧 / アイスランド:ノルウェー / サガ / 法 / 王権 |
Research Abstract |
1.法改正:平成21年度前半期は、1271年と1280年の二度にわたっておこなわれた法改正の過程を『司教アールニのサガ』を主史料として分析した。6月の日本西洋史学会における口頭発表はその成果である。ノルウェー王の授与した新法典の承認に際しては、アイスランド人住民と王の使節との対立が生じ、論争の過程で法に対するふたつの異なる認識、すなわち法の共有というアイスランドの慣習と法の占有という新たな君主理念との違いが浮き彫りとなった。さらに、ノルウェー王の従士となっていたアイスランド人有力者層が、王への責務とアイスランドの利害の代弁者という役割を同時に担い、王権とアイスランド住民間の交渉を主導していた様子も観察できた。 2.サガと王権:後半期にはアイスランド大学人文学科・中世学修士課程に聴講生として留学し、研究を進めた。同機関においては、主にアイスランド中世文学研究の最新の成果にふれることができ、13世紀にピークを迎えるアイスランド固有の散文物語・サガの作成活動と社会情勢の変化との関連について、今後の研究遂行のための見通しを得た。アイスランド文学史において、14世紀以降は文学・社会の「衰退」期と捉えられてきたが、近年若手研究者を中心に再考が進んでいる。その主張の骨子に、かつては「衰退」の証左とみられていた14世紀以降の海外文学への関心の高まりを、王の臣民となったアイスランド住民の新たなアイデンティティの表出と捉え直す見方がある。そのような視点の転換からも、特に1270年代以降に具体化する王権支配がアイスランドとスカンディナヴィア、さらにはヨーロッパの中心部との距離を縮める役割を果たし、それに対するアイスランド社会のさまざまな反応がサガに保存されている可能性の高いことが示されつつある。
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Research Products
(2 results)