2008 Fiscal Year Annual Research Report
コウモリの反響定位コール地域間変異の維持機構の解明:母子間伝播と自然選択の役割
Project/Area Number |
07J07128
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
吉野 元 Tohoku University, 大学院・生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 小翼手類 / エコーロケーションコール / CF / 島内変異 / 母子伝播 / 自然選択 / 遺伝子流動 / 集団遺伝学的解析 |
Research Abstract |
沖縄島のコキクガシラコウモリで見られた超音波音声の周波数に関する地域間変異は、北部と南部の集団間では遺伝子流動が十分であるにもかかわらず維持されている。本研究は、この変異が、どのような要因で維持されているのかを明らかにすることを目的とする。仮説として、母子伝播仮説と自然選択仮説を挙げ、これまでに以下の研究成果を得た。 マイクロサテライト領域及びmtDNAを用いて個体間の血縁度を求め、集団内個体の周波数の類似性を調べた。その結果、同じ母系であり、マイクロサテライトにより推定した血縁度が高い個体間では、CFの類似性が高い傾向を示したが、完全にCFが一致する血縁個体はなかった。得られた遺伝子流動、母子間の周波数類似性のデータを基に、個体ベースモデルを作成し、個体のCFがどの程度母の音声による伝播に依存している場合に、地域間変異が維持されるのかをシミュレーションした。その結果、完全な母子間伝搬(母親と子のCFが一致する場合)を仮定しなければ変異が維持されないことがわかった。以上のことから、この仮説により変異が維持される条件は非常に限定されていることがわかり、実際のデータから、そのような条件で個体のCFが獲得されているとは考えにくいということが示唆された。 自然選択仮説に関しては、南北の環境の違いや音の波長の違い(餌のサイズと比例する)がほとんどなかったため、遺伝子流動の効果を相殺するほどの強い自然選択圧となっている可能性が低い。もう一つの選択圧の候補として、social selectionの可能性が考えられ、現在進化シミュレーションによって、新たなモデルを構築し、この仮説を検証中である。この妥当性が示唆されればCF変異のメカニズムとして、確実な証拠によって示唆することが難しかったsocialな要因を示唆することができる。
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