2009 Fiscal Year Annual Research Report
コウモリの反響定位コール地域間変異の維持機構の解明:母子間伝播と自然選択の役割
Project/Area Number |
07J07128
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
吉野 元 Tohoku University, 大学院・生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 小翼手類 / エコーロケーションコール / CF / 島内変異 / 母子伝播 / Social selection / 遺云子流動 / 進化シミュレーション |
Research Abstract |
沖縄島のコキクガシラコウモリで見られた超音波音声の周波数に関する地域間変異は、北部と南部の集団間では遺伝子流動が十分であるにもかかわらず維持されている。本研究は、この変異が、どのような要因で維持されているのかを明らかにすることを目的とする。仮説として、母子伝播仮説と自然選択仮説、及びSocial selectionが考えられた。しかし、自然選択仮説に関しては、南北の環境の違いや音の波長の違い(餌のサイズと比例する)がほとんどなかったため、遺伝子流動の効果を相殺するほどの強い自然選択圧となっている可能性が低い。集団遺伝学的手法により得られた遺伝子流動やコウモリの野外のセンサスデータを基に、個体ベースモデルを作成し、1)個体のCFがどの程度母の音声による伝播に依存している場合に、2)どのくらいのSocial Selectionが働いている状況で、地域間変異が生成/維持されるのかをシミュレーションした。その結果、母子間伝搬に若干のエラーが起こり、かつ中程度のSocial selectionを想定すれば、実際の南北間の周波数変異を再現できることが明らかになった。なお、変異が生成されることは無かった。以上の進化シミュレーションと実証研究結果から、変異が維持される条件は非常に限定されていることがわかった。本研究から、オキナワコキクガシラコウモリの島内地域間のCF変異のメカニズムの一つとして、母子間伝搬及びsocialな要因がカギとなっていることを示唆したと伴に、小翼手類の音声変異の研究において実証が困難であった母子伝播とSocial selectionの進化的な重要性を示唆することができた。今後のエコーロケーションコールの音声研究に、コミュニケーションシグナルの変異に関する研究に新たな要因(シグナルの文化伝搬など)が関与していることを示唆する土台となる意義のある成果である。
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