Research Abstract |
当該種の知覚特性を明瞭に示す現象である,幾何学的錯視知覚について,ヒト・ハト・ニワトリ間で比較することにより,(1)当該種の視知覚に対する系統発生的制約と生活史的制約の影響を分析し,視知覚システムの進化を明らかにすること,(2)錯視知覚に影響する諸変数のうち,ヒトの錯視研究からだけでは解明できない部分を検討することが目的であった。 本年度は,ニワトリを用いて,標的線分長に対する条件性位置弁別課題を用いたアモーダル補間知覚を調べた。ヒトでは,遮蔽物体(灰色長方形)に接した標的線分が,実際よりも過大視される錯視が知られており,アモーダル延長とも呼ばれる。ニワトリは,ヒトとは逆に,遮蔽物体に接した標的線分が,実際よりも過小視される錯視が生じた。ハトでも類似した傾向(Fujita,2001)であり,両種で,アモーダル補間知覚に否定的な結果であったといえる。またこれらの結果は,初年度の研究報告で述べた,視覚探索課題を用いたアモーダル補間知覚実験の結果とも一致していた。 前年度の研究報告などから,これらの鳥類では,ヒトで対比現象が生じる錯視図形(逆ミュラー・リャー錯視,長い矢羽長の順ミュラー・リヤー錯視,エビングハウス錯視,同心円錯視図形など)に対しては,錯視が生じないか,あるいはヒトと逆方向の錯視が生じることが示されてきた。対比現象やアモーダル補間が生じるためには,標的刺激と文脈刺激を分離し,かつ同時に処理する必要があることを考えると,これらの結果は,鳥類との比較において,ヒトの錯視や情報処理特性が,標的刺激と文脈刺激との空間的関係性を重視する方向に進化してきた可能性を示すものであると考えられる。
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