2007 Fiscal Year Annual Research Report
物語読解時の表象構築過程における知覚的長期記憶の役割
Project/Area Number |
07J07277
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
常深 浩平 Kyoto University, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 文章理解 / 知覚的長期記憶 / 心的表象 / 物語 / 文学 |
Research Abstract |
常深(2006)において,読解内容に関する知覚的な長期記憶を事前に想起したとき,経験類似度が高い読者は読み時間が長くなり,経験類似度が低い読者は読み時間が短くなるという一次交互作用が見られた。経験類似度低群が想起していたのは,非自伝的な知覚的長期記憶,つまり意味的な知覚的長期記憶ではないかという仮説が立てられため,本年はまず,この仮説を検討する実験を行った。具体的には,これまでの方法を踏襲して物語の読解前に知覚的長期記憶の想起を求める実験を行い,新たに意味的な知覚的長期記憶について事前想起を行う群を設け,比較した。ただし,純粋に意味的な知覚的長期記憶を想起させることは方法的に困難であったため,擬似的なそれとして,読者が見たことのない挿絵を呈示し,その知覚的な特徴のみを口頭で挙げてもらうという手法を取った。結果,仮説通りに経験類似度の高低によらず,想起によって読み時間が短くなり仮説が支持された。しかし上述の一連の実験では,自伝的記憶想起による読み時間の延長の内容まで明らかにしてはいなかったため,実験計画の順序を一つ繰り下げ,思考を口頭で発話して貰う発話思考法という手法を用いて,擬似的に物語読解中の想起内容を調べた。結果,知覚的かつ個人的な長期記憶と考えられる発話を確認した。また部分的ではあるがその際に読み時間が長くなっていたことは,これまでの研究と一致する。以上より,読み時間延長の内容が知覚的かつ個人的な長期記憶である例を確認することができた。以上の実験から,常深(2006)の交互作用は読者が想起していた知覚的長期記憶の性質によって生まれていたことが示され,読解に関与する知覚的長期記憶は意味的な記憶(一般的な記憶,知識)と自伝的なもの(特殊な・個人的な記憶)に分けられ,前者は読み時間を短縮し,後者が読み時間を延長していることが確かめられた。
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Research Products
(1 results)