2009 Fiscal Year Annual Research Report
二〇世紀後半フランスのフロイト派精神分析の言語観、とくに母語観の研究
Project/Area Number |
07J07572
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 朋子 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 20世紀 / フランス / 現代思想 / フロイト / 精神分析 / 母語 / 多言語使用 / 幼児 |
Research Abstract |
前年度に引き続いて、1960-90年代にフランスで展開したフロイト派精神分析の理論活動の特徴を、言語観、とくに母語観に関して明らかにする作業を行った。第一のテーマとして、N.アブラハムとM.トロックによる、多言語使用に基づく分析実践をとりあげた。彼らの試みが理論平面上にもたらした成果の一つを、「語」の起源を知覚のうちに指し示すフロイト理論の問題化のうちに指摘した。第二のテーマとして、上述の二人の分析家、J.ラプランシュ、その他、複数の分析家がとくに70年代以降にとりくんだ母子関係論の再錬成に注目した。症例研究から理論的ないし思弁的な考察まで、彼らの言説の諸々のレベルにおいてみられる一般的な傾向に輪郭を与えるものとして、「幼児」の問いの深化、すなわち、母子関係を基盤とする前エディプス期をめぐる思索の深化を標定した。この標定とともに、一方では、自ら欲望するエディプス的な「幼児」を心的装置成立の最初期に据えることがしばしばであるフロイト理論に比しての一つの前進を指摘することができる。他方では、心的経済の起源において他者の介入という問いの分節化を要請する理論(トラウマ理論)の再評価、および、トラウマ的反復の観念を利用した「語」観念の再規定の粗描という特徴が明らかになる。 本年度は、本研究が狙う貢献の位置を明示するために一般的な文脈の整理も行った。精神分析理論史の観点からは、フロイトから始まる理論発展の連続性を保証する枠組みとしての「欲動」概念の役割を確認した。20世紀の思想的状況の観点からは、先行研究を参照しつつ、哲学者や現象学者、科学思想史・精神病理学史研究者によるフロイト読解の概観を試みた。フランスのフロイト派精神分析が「欲動」概念を利用しながら錬成してきた言語観、母語観に対して独自の位置を思想史上で与えることを提案する論考の導入、最終章および結論の執筆において、以上の整理は生かされる。
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Research Products
(1 results)