2008 Fiscal Year Annual Research Report
近現代日米間における「環境問題」をめぐる言説体系の翻訳論的・クロスジャンル的研究
Project/Area Number |
07J07598
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
信岡 朝子 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 日米文化交流 / 環境問題 / 表象 / 異文化遭遇 / 自然観 / 写真と文学 |
Research Abstract |
本研究課題は、主に欧米を起源とする近代的環境保護思想の「普遍性」への信奉を見直し、その問題点を明らかにするという狙いのもとに、日米間での「環境問題」の表象の差異をめぐって発生する、社会的・文化的葛藤や軋轢の内容、あるいはそれらが発生するメカニズムを、異文化理解と翻訳論的、クロスジャンルといった比較文学・文化論的視点から、複数の具体的事例を取り上げつつ多角的に考察しようとするものである。本研究は、環境問題の考察に「異文化理解」という視点を取り入れているという点で特徴的であり、異文化間での自然観や、歴史的・文化的背景の違い、また自然や環境に関する「表象」方法の違いが、互いの主張や認識のすれ違い、ひいては政治的な対立を引き起こす遠因となっているという点を解明しようとしているという点で、具体的な社会貢献に結び付き得る、画期的な研究課題であると認識している。 平成20年度中の最大の研究成果とは、本研究課題での成果の一部をまとめた博士学位論文「自然をめぐる対話-20世紀日米間における〈環境〉表象の交錯」を、東京大学大学院総合文化研究科に提出したことである。本博士論文は、本研究課題、またその基礎部分を成す過去の研究蓄積の中でも重要な三つのテーマ、すなわち1)E・T・シートンによる動物物語の日米受容2)W・ユージン・スミスによる水俣病の写真表象3)動物写真家・星野道夫のアラスカついての思想、といったテーマに関する考察を軸とし、20世紀という時代を通じて「環境」をめぐる表象群が、写真や文学などの媒体を通じて日米間で具体的に交錯する様を包括的に描写したものである。具体的内容としては、日本を含む非欧米圏の人々を「エコロジカルな他者」として理想化する、欧米アカデミズムの傾向を批判した上で、上記に上げた1)〜3)の具体的事例の検討をもとに、従来論で言われているような「東西対比」的な自然観の対立ではない、より重層的かつ複雑な「異文化」的視点の交錯が見られるという点を指摘した。その上で、いわゆる東西の二分律では割り切れない、個々人の多彩な立場・視点の交錯が、実社会の様々な動きと相互作用する模様を詳述した。さらに本論では、「環境文学」研究、あるいなエコクリティシズムと呼ばれる新しい文学批評の方法の矛盾と限界についても取り上げ、いわゆる「人文系」と呼ばれる領域から、「環境」という課題に、今後いかなる形で貢献できるのかという点について、いくつかの提言を行った。
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Research Products
(1 results)