2008 Fiscal Year Annual Research Report
アリストテレス哲学の研究-『自然学』を出発点として-
Project/Area Number |
07J07736
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大木 崇 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | アリストテレス / 自然学 / ゼノン / 飛矢 / パラドクス / 運動 / 時間 |
Research Abstract |
アリストテレスの伝えるところのゼノンの「飛矢」の議論は、(1)「すべてのものは、それ自身と等しい場を占めるとき、動いているか静止しているかのいずれかである」、(2)「運動しつつあるものは、つねに<今>においてある」、(3)「飛んでいる矢は動かない」という三つのテシスから構成される(Rossの校訂(239b6)を私は採らない)。 ゼノンの元の議論を「再構成」しようとする試みは、数多く行われているが、本研究は、むしろ、これをアリストテレスが導入しているテクストの文脈に基づいて、あくまでもアリストテレスが理解している限りでの「飛矢」を理解しようとするものである。たとえば、再構成のために補われるべきテシスとしてリーなどが提案してきた文言は、すでにテクスト(239a35-239b1)に述べられているのを読み取ることができる。このパラドクスに対するアリストテレスの反論を考える際には、彼の<時間>、<運動>の概念はもちろん、とくに<連続>についての理解が必要となる。たとえば、「時間は、不可分な<今>から構成されているのではない」(239b8-9)というテシスは、時間原子論の否定として解されるべきではない。このことは、直前の第八章からも明らかであり、またZ巻第一章の議論(しばしば時間原子論を否定するものと解されるが、ミラーが指摘するように、それは妥当ではない)とも整合的である。「飛矢」の精確な理解に基づくならば、リアの解釈(アリストテレスを「論点先取」と批判している点)、最近のマギドルの解釈(<今>において「動く」ことが可能であると考えている点)などを明確に斥けることが可能である。
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