Research Abstract |
平成20年度の研究課題は,事象関連脳電位(ERP)を用いた実験を行い,視覚変化処理および受動的注意システムの脳内メカニズムのダイナミックな側面を能動的注意システムとの空間的関係という観点から解明することであった. 年度はじめの段階で,視覚変化処理を反映する可能性のある一つのERP成分が複数の研究者によって報告されていた:逸脱関連陰性電位(deviant-related negativity,DRN).もしこの成分が真に視覚変化処理に関連するERP成分であるならば,今後の研究課題遂行における重要な指標になる.そこで申請者は,DRNの根底にあるプロセスが視覚変化検出であるか否かを実験的に検討した.その結果,DRNは二つの下位成分から構成されていることがわかった:(1)視覚刺激の符号化プロセスを反映するVisual N1,(2)視覚変化検出プロセスを反映するVisual mismatch negativity(vMMN).したがって,vMMNは視覚変化検出の脳内メカニズム解明のための重要な指標として用いることができる.この知見はPsychophysiology誌に受理された(Kimura,Katayama,Ohira,&Schroser,2009,Psychophysiology). この知見を踏まえた上で,平成20年度の研究課題解明のための実験を行った.この実験では,視覚刺激系列を呈示し,刺激系列内の視覚刺激変化に対するERPを,二つの空間的注意条件下で比較した(注意・非注意).結果,(1)視覚刺激変化に対し空間的注意が向けられていない場合には,視覚変化検出を反映するvMMNが出現しないこと,(2)空間的注意が向けられていない場合には,後続する受動的注意システムの働きを反映するN2bやP3bも出現しないこと,(3)空間的注意が向けられている場合には明瞭なvMMNが出現すること,(4)空間的注意が向けられている場合にはN2bやP3bが後続することが明らかになった.これらの結果は,能動的注意システムによって制御されている空間的注意は,視覚変化情報の処理に極めて強力な影響を持っており,呈示される視覚変化情報自体が等価であっても,能動的注意と視覚変化情報の空間的な関係に依存してその処理の程度が大きく変わりうることを示している.この知見は現在国際学術誌への投稿準備を進めている.また類似した知見がすでにNeuroscience Letters誌に受理されている(Kimura,Katayama,&Ohira,2008,Neuroscience Letters).
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