2008 Fiscal Year Annual Research Report
日本列島の削りかけ状造形物をめぐる研究-形象としての削りかけに人々の精神性をよむ
Project/Area Number |
07J07804
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Research Institution | Tohoku University of Art and Design |
Principal Investigator |
今石 みぎわ Tohoku University of Art and Design, 芸術工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 削りかけ・イナウ / 樹木文化 / 人為的生態系 / 里山 |
Research Abstract |
本研究は日本列島に分布する削りかけと呼ばれる木製祭具を研究対象とし、その具体的なかたち(造形物そのもの、および伴われる行為)に形象化されている人々の精神性を抽出することを目的とする。 二年目である本年度は、これまで行なってきた具体的事例の収集作業に係わる補足・追加調査、及び収集資料の整理・分析作業を行なった。中でも削りかけに用いられる樹種について、全国のおよそ一四〇〇例の事例分析を通して、どういった形状・用途・名称の削りかけにどの樹種が用いられているかを具体的数値として示した。その結果、樹種が名称や用途に従って厳密に選択されていること、またその選択が日本列島の広い地域において共有されるものであることが明確となった。こうした樹種の高い共通性は、その背後に共通する樹木認識の体系を想定させるものである。 分析作業を通して明らかになった樹種選択の様相はまた、そもそもどのような生態学的、材質的性質を持つ木が、特別な木、いわば「祭りの木」として選ばれるのか、その具体的傾向のひとつを示すという点でも重要である。昨年までの研究に引き続き、削りかけに用いられる樹木群の特徴について生態学的知見から検討を加えたが、いわゆる里山のような人為的生態系を好む性質を持つことや、有用木とはなりにくい軽軟な材質であること、初期生長力の著しい先駆性植物が多いことなどが一層明確となった。このことは、人々が祭りの木として、生活のごく身近にあり、かつ実生活においては役に立たない樹木を選択していることを示すものである。日常にありふれ、かつ無用である樹木に、あえて聖なる木としての意味を付与する行為は、一面では非常に合理的であり、また一面では無用性と聖性とを表裏一体に捉える人々の精神性を示すものと捉えることができるだろう。
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Research Products
(3 results)