2007 Fiscal Year Annual Research Report
高密度QCDにおける動的対称性の破れとクォークーハドロンクロスオーバー現象
Project/Area Number |
07J07907
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 直希 The University of Tokyo, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 理論核物理 / カラー超伝導 |
Research Abstract |
量子色力学(QCD)は有限温度・密度において、多彩な物質層を呈すると考えられている。低温・低密度ではカイラル対称性が自発的に破れたクォークの閉じ込め相(ハドロン相)、高温では熱揺らぎによってクォークの解放されたクオーク・グルーオン・プラズマ相、更に低温・高密度ではクォークが超伝導状態となったカラー超伝導相が発現するとことが理論的に分かっている。特に、ハドロン相とカラー超伝導相の中間密度領域について、その相境界がどうなっているのか、また素励起がどのような形態で存在するのかは謎に包まれていた。 申請者はこのような問題に対し、QCDの対称性のみから中間密度領域の相構造を調べ、特に軸性異常と呼ばれる現象によって、ハドロン相からカラー超伝導相へのクロスオーバー(相転移が存在しないこと)、更にその中間領域に新しい臨界点が存在している可能性があることを昨年度の碓究によって示した。また同時に、中間領域におけるπ中間子の描像と質量公式を与えた。今年度はその他の励起状態であるベクトル中間子に対しても物理的描像を与えることが目的であったが、申請者は媒質中のQCD和則と呼ばれる手法を用いて、中間密度領域におけるベクトル中間子の一般的な質量公式を与えることに成功した。特に重要な発見は、この質量公式において、クォークとクォークのペアリングであるダイクォーク凝縮が8重項ベクトル中間子に対しては質量を増大させる方向に働くのに対して、1重項ベクトル中間子には質量を減少させる方向に働くということである。この効果によって、低密度で縮退していた1重項・8重項ベクトル中間子の質量が中間密度領域では分岐し、更に高密度では1重項ベクトル中間子が存在しえないことが分かった。一方で、高密度で8重項ベクトル中間子はギャップ程度の質量をもち、カラー超伝導相中でヒッグス機構によりギギップ程度の質量をもった8重項グルーニンと密接に関係していることを明らかにした。 これらの研究の結果は、励起状態についてもハドロン相からカラー超伝導相へ連続的に移り変わっており、相構造と励起状態の両方の観点で「ハドロン-クォーク連続性」のシナリオが成り立っているということを強く示唆しており、非常に重要であると考えられる。
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