2009 Fiscal Year Annual Research Report
高密度QCDにおける動的対称性の破れとクォーク-ハドロンクロスオーバー現象
Project/Area Number |
07J07907
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 直希 The University of Tokyo, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 量子色力学 / カラー超伝導 / ランダム行列理論 / 非可換渦 |
Research Abstract |
量子色力学(QCD)は有限温度・密度において、多彩な物質相を呈する。低温・低密度ではクォークの閉じ込め相であるハドロン相、高温ではクォーク・グルーオン・プラズマ相、更に低温・高密度ではクォークが超伝導状態となったカラー超伝導相が発現することが理論的に分かっている。 申請者は、系の微視的な詳細に依らないユニバーサリティをもつ有限体積のQCDを考えることによって、ハドロン相とカラー超伝導相の間に厳密な双対性があることを発見した。この双対性を利用して、高密度QCDにおけるディラック演算子の固有値の分布がカラー超伝導のギャップで支配されていることを示すと同時に、分配関数のゼロ点の分布を厳密に決定し、これまでのモデル計算による予言が大きく覆されることを指摘した。これらの手法をカラーの数が2のQCD(QCD2)にも拡張し、ディラック固有値に関するスペクトル和則を導出した。これまで格子QCDで高密度QCDの超伝導ギャップを測る方法は負符号問題のないQCD2の場合でさえ提案されていなかったが、この和則は超伝導ギャップが格子QCD計算によって数値的に測定できる初めての例を与えている。さらに、高密度QCDのユニバーサリティクラスを記述するカイラルランダム行列理論をQCD2の場合に構築した。 また、カラー超伝導相に存在する非可換渦の有効理論を構成し、特にストレンジクォーク質量によって誘起されるポテンシャルによって、全ての非可換渦は1種類を除いて不安定で崩壊してしまうことを明らかにした。これは、中性子星内部で核物質である中性子超流体の渦からクォーク物質であるカラー超伝導体の非可換渦にどのように繋がっているかということを考える上で重要な性質であると同時に、中性子星のグリッチ現象にも関係している可能性がある。更にこの結果は、非可換渦の有効理論の量子効果を無視した範囲では、高密度QCDにモノポールが存在しないことを示している。
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